藤巻駿

↑相良さんに最高の技をプレゼントし、満面の笑顔の藤巻駿。


いやー、やりましたね!内村航平選手!
体操競技・個人総合にて、見事に金メダルを獲得しました!
おめでとうございます!!

ほんと一時はどうなる事かと思いましたよ。
当道場が長崎県出身選手の紹介で「金メダル最有力」とか書いた翌日に、
鉄棒でまさかの落下をして種目別決勝への進出を逃したり。
第2のデスブログになる所でした…危なかった。


ロンドンオリンピック特集の第2回はもちろん、「体操」です。

既にニュースにもなっていますが、内村選手は体操漫画である
『ガンバ!Fly high』を愛読されていたそうです。
海外のインタビューで「目標としている体操選手は?」と聞かれた際にも、
藤巻駿(この漫画の主人公)」と答えられたほどのハマりよう。

この作品は、原作がロサンゼルス五輪の金メダリスト・森末慎二さんなんですよね。
自ら企画を週刊少年サンデーに持ち込まれ、体操競技の面白さを、
森末さん自身の経験を通して描かれてきました。

内村選手もハマっていた体操漫画が伝えてきたものとは何か。
今回はそれを見ていきたいと思います。


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東伝次

↑つり輪のヘラクレス・東伝次。


『ガンバ!Fly high』という漫画を象徴するのが、東先輩のこのシーンですね。
ウルトラG難度の力技を披露するも、技の構成を抜いてしまった為に点数は伸びず、
それでも自分の技を出し切った事をガハハハと笑い飛ばしています。

この後、藤巻駿が自身の代名詞であるトカチェフ前宙を決めるのですが、
新堂キャプテンから「藤巻は9.70以上を出せますかね?」
と聞かれた、平成学園体操部コーチのアンドレアノフは、
「得点は…問題じゃない!大切なのは本人が満足出来る演技が出来たかどうかさ」
と、演技を楽しむ事の重要性を説いています。


アンドレアノフは、「楽しい体操」を駿たちに教えてきました。
点数をあえて気にせず、難しい・美しい技をやりたいままに挑戦する。
内田先輩は哲学的に、真田先輩はかっこよく、東先輩はパワフルに、
それぞれが考える体操の表現を、「楽しい」という言葉に置き換えています。

留意すべきは、技の構成を無視した演技や、加点対象にならない演技などを、
金メダリストの森末さんが肯定的に描いている事です。
東先輩の例で言うと、空中でポージングを決めてニッカリ笑ったり、
手首をまっすぐに伸ばさずわざわざ疲れる握り方をしたり、
審査の上で何の得にもならない事を好きこのんでやっている所ですね。

点数至上主義として描かれるライバルの李軍団の方が、
実は正論を言ってるのですが、この作品ではあえてそれを否定しています。
自己満足とも言えかねない「美しい体操」を、「楽しい体操」と結びつけ、
積極的に取り組ませるアンドレアノフコーチの指導方法は、
そのまま森末さんのメッセージであると受け取る事が出来るのではないでしょうか。


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冒頭のシーンに戻ると、駿は自身の代名詞である「トカチェフ前宙」を、
閉脚屈伸の姿勢から繰り出し、見事に成功させています。

しかし、当時の体操競技のルールでは、トカチェフ前宙自体がスーパーE難度で、
開脚でやっても閉脚でやっても、上限は変わりません(たぶん)。
技の難易度が青天井になった現在のルールであれば加点されるでしょうが、
この時の駿の演技は、「相良さんに最高のトカチェフ前宙をプレゼント」する為の、
得点として評価されるかどうかも分からない自己満足なんですよね。

しかし、技を成功させた後の駿は、ご覧の通り満面の笑顔。
結果としても、9.902という超高得点を叩き出しますが、
この笑顔こそが、『ガンバ!Fly high』という漫画そのものなのです。


トカチェフ前宙は、駿が中学生の時、アンドレアノフコーチの前で
3人の先輩と一緒に開いた「新技発表会」で初披露した技です。
新技と言っても、中学生が考える程度のものですから、
それぞれが披露した技も、技と呼べるほどのものでも無かったのですが、
どれもやはり、「楽しい体操」の延長線上から生まれたものでした。

駿の新技も、たまたま競技で認定される「新技」であったというだけで、
その原点は3人の先輩の新技と同じ、「楽しい体操」なんですね。
屈伸のトカチェフ前宙も、そうした体操を楽しむ心から生まれたものであり、
いかに難しく、いかに美しい技を披露するかという向上心こそが、
森末さんが考える「楽しい体操」だという事が分かります。


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内村選手も、演技を終えたらカメラに向かってピースサインをし、
野菜は食べずに有楽製菓のブラックサンダーを食べまくり、
求道者のようなスポーツ選手とは正反対の、無邪気な心をお持ちです。
ゆかのG難度「リ・ジョンソン」など、とてつもない技を軽々とやってのける裏には、
小学生の時にご両親がプレゼントしてくれたトランポリンで、
きゃあきゃあ言って遊んでた背景がある事が知られています。

子供の遊びの延長が、最高難度の技に繋がっているなんて…。
まさに漫画の中の世界の話じゃないですか。
これが内村選手の口から語られるのですから、信じざるを得ないですね。


『ガンバ!Fly high』は、「楽しい体操」を伝えるばかりか、
漫画の面白さまでも備えた、ウルトラG級の素晴らしい作品であるのは、
審査をする読者の目から見ても、疑う余地もないでしょう。

そしてそれを愛読していた内村選手が金メダリストとなったのは、
日本の誇りがまた1つ増えたという事なのかも知れません。
 


ご清覧ありがとうございました。