前回:覚者の剣(4) 最初から:覚者の剣(1)
覚者神剣の伝承者・アドナイの下で働く派遣社員のリン。
サポートポーンとして2人の前に現れたバットを仲間(奴隷)に従え、
ついに領都グラン・ソレンに辿り着いた。
中 世 紀 救 世 主 伝 説
覚者の剣 第5話「俺の名を言ってみろ」
―――
あぁ…チョー重いし…くそっ!
おいバット、これ持てよ。
> バット
おいぃ…こんな重たい石版、何枚も持てねーよ!
あ?バットのくせに口答えしやがって。
私は箸より重いもんは持てない体質なんだよ!
> アドナイ
どうした?リンたん。
あ、覚者サマ~ん。
バットさんが全部持ってくれるって言ってくれて~。
いや~ん、リン子感激~。
> アドナイ
フッ、男たるもの、そうでなくてはいかん。
早くその石板を運び出そう。
> バット
くっそ、あいつ覚えてろよ…!
(ふふ…こりゃぁ便利な下僕が手に入ったものだわ。)
時は遡ること6日前―
> マクシミリアン
あなたが覚者殿ですね?
先ほど兵より報告を受け、お待ちしておりました。
領都グラン・ソレンに着いた私達は、ポーンシステム社の使者と
連絡を取り合いながら、領王サマへの謁見を申し込んだ。
> マクシミリアン
私の名は、マクシミリアン=アイゼンシュタット。
領王様より、竜征任務の指揮を任されております。
貴殿に、まず竜征の任務についてご説明しましょう。
それから数日後、お城からやってきた兵士より、
領王サマからの竜征任務の証を拝領した。
> マクシミリアン
貴殿にお渡しした竜征の許可証…それは領王様直々に下命された、
ごく重要な任務に従事する事を許可するものです。
何やら謁見の前に仕事をいくつかこなして欲しいとの事らしい。
> マクシミリアン
現在、我々が取り組んでいるのは、
主にドラゴンに関する情報収集や防衛対策事案。
全ては国と民衆の安息の為に擁立された、特別な任務です。
「竜征」とか名の付く任務の割に内容はしょぼい。
征伐はしなくていいって事なんだろうか。
> マクシミリアン
"覚者"となる人物が現れた際には、我々は可能な限り
協力を惜しまぬよう命じられております。
貴殿の活躍には、皆の期待がかかっておりますよ。
ぜひ、ご協力を。
という訳で、私と覚者サマと忠犬1匹は、領王サマに謁見すべく、
許可書を携えてせっせと使いっぱしりをやっている。
で、今はドラゴンのルーツを調査する為、
竜者神剣に纏わる遺跡から石碑を運んでる最中だ。
…あのメルセデスとかいう女性将兵さんの話だと、
ハイドラの首を運んだら会わせてくれるはずだったんだけど?
あれか、嘘ついたのか。汚いなヤナセさすが汚い。
やっぱ車は国内産に限るわぁ。
…ってこんな話じゃない。
とにかく、与えられた任務をこなすのみよ!
> アドナイ
よし、これで完了だ。領都に戻るとしよう。
> バット
(;´Д`)ゼェゼェ…。
そこからさらに半日が過ぎ―
> バット
はぁ…領都に戻ってこれた。
ようやくベッドにありつけるぜぇ…。
じゃぁ私は宿の手配をしてきます。
> バット
ああ、俺もついていくよ。
1秒でも早く休ませてくれ…。
へたれめ…、はいはい分かりましたよ。
じゃあ覚者サマ、バットさんを永遠の眠りに就かせたら、
お声をお掛けしますので、しばらくお待ち下さいね。
> アドナイ
ああ、宜しく頼む。
> バット
え?…え?
―――
よし、宿の手配も済ませたし、用済みの下僕は眠らせたし、
覚者サマの所に戻りますかね…。
…んん?
誰だあれ…覚者サマが誰かと話してる…?
> 黒衣の男
"覚者"殿とお見受けします…。
> アドナイ
いかにもそうだが…?
> 黒衣の男
ポーンなどという、曖昧なるものを率いて、
竜の者を倒しに行かれるとか?
> アドナイ
…そうだ。
> 黒衣の男
そう、だが…それは"覚者"となった者を誘う、竜の業。
己の意志がどうあれ、引き寄せられる。
うぅ…ぼそぼそ話しててよく聞き取れない…。
何て言ってるんだ?
> 黒衣の男
これまでも、多くがそうやって…
こちらの世界の理に、乗り込んできたのです。
…身の程も知らずにね。
> アドナイ
…貴様、何が言いたい。
> 黒衣の男
竜者神拳は、世界に繰り返し現れ、
覚者神拳もまた、その度に生まれる…。
だが、ほとんどの覚者は、神にまみえる事すらかなわず、
その身を滅する事となる…愚かな末路です。
あの声、どっかで聞いた覚えがあるんだけど…。
小さくてはっきり分からないな…。
> 黒衣の男
弱く、脆いのですよ。人は…この世界はね。
領都では兵を募っておるようですが、いかにそれが無益な事か…。
じきにお分かりになるでしょう。
> アドナイ
ぬうぅ…。
あら…去っていった。
まぁいいや。
覚者サマー、宿のご用意が出来ましたよー。
> アドナイ
…あぁ、有り難う。
さっきのは誰だったんですか?
> アドナイ
分からぬ…ドラゴンの事を知っていそうだったが。
> あれは"救済"の首魁ですよ…。
むむ…また怪しい輩が!
> メイソン
こりゃあ幸運ですな、覚者様に出会えるとは。
あっしはメイソンという者、以後お見知り置きを…へへ。
ちょ…チョー怪しい…。
> メイソン
"救済"ってのは、傍若無人なドラゴンのやつに盲信してる、
竜者神剣を真理とした怪しい団体の事でしてね。
お前も充分に怪しいよ。
かく言うあっしも、"救済"とは訳ありでして、
さっきの男の事をちょいと調べてたんですが…、
どうも、このツラが怪しげなのか、
皆、あまり喋ってくれなくてね、えへへへ…。
だろうな。
> メイソン
時に、あんたも連中を探ってるんなら、実に好都合じゃないですか。
あっしに代わって、調べてみちゃもらえませんかね…?
> アドナイ
俺もドラゴンについての情報を探している。
断る理由もあるまい…いいだろう。
ええっ、信じちゃうんですか!?
> アドナイ
大丈夫だ、何かあっても遅れを取る事はない。
> メイソン
ありがたい、じゃあ、これを持っていって下さい。
"救済"のやつらが合言葉代わりに使ってる符丁ですよ。
これがあれば、覚者さんも"救済"の集会所に潜り込めしょうや。
> アドナイ
集会はどこでやるんだ?
> メイソン
明日の夜、領都の北にある地下墓地でやるらしいですぜ。
あっしも準備を整えてから集会所に潜入するんで、
向こうで落ち合いましょう…。
行っちゃった…。
> アドナイ
うむ…俺達も身体を休めたら、向かうとしよう。
これでまたドラゴンに近づく事が出来る。
なんかどんどん深みにハマってる気がするわぁ…。
―――
> バット
おいおい、本当にこんな所で集会なんかあんのかよ…。
罠じゃねぇのか…?
うるさいなー、黙ってついて来いよ。
へたれのくせに墓地とか来るからいけないんだよ。
> バット
うわーーーーっ、お化けだーーー!!
出たーーー!!!
なんまいだぶ、なんまいだぶ…。
(こっちの世界でお経って利くのかしら…?)
> バット
しっかし、その黒衣の男って誰だったんだ?
リンは声を知ってたんだろ?
うん、知ってるってゆーかね…。
すっごい聞き覚えのある声だったんだけど、
遠くてよく聞こえなかったんだよね…。
> バット
まぁ現場に行きゃ分かるんじゃないか?
そいつが"救済"の親玉ってんなら、必ず居るだろ。
うん、確かにそうだわ。
でもバットごときに指摘されるのは嫌だ。
> アドナイ
シッ…静かに。
どうやら近いようだぞ。
あ、誰かが話してる…。
> この物質世界では、不本意ながら、
魂はそのような不完全なありようでしか存在できない。
あらゆる困窮、不幸、苦痛は、物質世界での
魂の不完全さが生み出す根源的かつ不可避なもの。
> バット
…演説みたいだな。
> では救いとは何か?
それは快楽ではない。
なぜならば、快楽もまた、魂の不整合性から
生み出されるいびつな機能快にすぎず、
苦痛の対として与えられる一時的な錯覚でしかないからだ。
これは…昨日聞いた声だ!
> 永遠に快楽だけを得られる魂、という存在は、
この世界ではありえない。
世界は、そのありようを正しくしようともがき、
それ自体が歪みに苦しんでいる。
あえて言おう、カスであると!
> バット
……(゚Д゚||)
(||゚Д゚)……
> アドナイ
どうしたんだ、2人とも?
顔色が悪いぞ。
> バット
ままま…まさか。
お、おい、リン…?
えええ…嘘でしょ…?
い、いやいや、あり得ないわよ。
> 正しく平常な世界とは、全ての魂が、
ひとつの安定した状態に収まり、
完全かつ普遍の存在へと昇華する事だ。
不整合な魂を捨て切れぬ軟弱の集団が、
この世界を生き抜く事は出来ないと私は断言するッ!
> バット
…間違いないな。
…間違いないわね。
> 人類は神に選ばれた優良種たる我が社に管理運営されて、
初めて永久に生き延びることが出来る。
これ以上戦い続けては、人類そのものの危機である!
物質世界の無能なる者どもに思い知らせてやらねばならん!
今こそ人類は明日の未来に向かって立たねばなぬ時であるとッ!
お前には分かるだろう、リンよ…!?
ドゴォーン!
> バット
うわあっ!!
しまった、気付かれた!
> ギレン
ふふふ…リン、バット主任、そして覚者殿よ。
よく来た。私は諸君らを歓迎しよう。
ギレン部長…!!
> バット
へっへっへ…よく見たら周りも知った顔ばかりじゃねぇか。
ここに居るやつらは全員、ウチの社員って訳だな。
> アドナイ
リンたん、もしやあの男はポーンの民の…?
そうです…。
私とバットさんの、上司です!
> バット
部長さんよ、なぜあんたがここに居る…?
そしてここで何をしていた…!?
> ギレン
…諸君らは「エリート」という言葉の意味を知っているかね。
> アドナイ
質問に質問で返すな。学校で教わらなかったのか?
> ギレン
これは失礼…、軟弱な者に返す答えを、
あいにく私は持っていなくてね。
> アドナイ
貴様…!
> ギレン
「エリート」とは、選ばれた魂の事だよ。
神に救われ、楽園に住まう事を許された死者の魂だ。
我が社の社員は、楽園の住人たる資格がある。
> バット
楽園…だって?真顔で冗談抜かすなよ。
俺らはあんたの道具じゃねぇ。
ドラゴンに魂を預ける事が救いだって言いてぇのか!?
> ギレン
ふふ…物分かりが良いな。その通り。
だが次に私の主の名を呼ぶ時は、「様」を付けたまえ。
> バット
な…じゃあ、ドラゴンのやつが、部長の…?
> ギレン
主任、君は本当に賢明だ…その通りだよ。
ドラゴン様は私のクライアントだ!
我々を楽園へいざなう救いの主であられるのだ!
(ll゚д゚(ll゚д゚ll)゚д゚ll)━!
> ギレン
私は言うなれば楽園への案内人…。
人は私をこう呼ぶ…!
"救済"の楽園(エリシオン)、と!
> エリシオン
覚者殿よ…!これが答えです!
全てを混沌に!全てに死を!
フハハハハハハーーーッ!
> ポーンシステム社員
ぐるるる…ぐるあぁぁぁーーーっ!!
ひいぃぃ!社員さん達がおかしくなっていくー!
> アドナイ
こ…これは、あの時の…!
ドラゴンが俺のハートをイチコロにした時と同じ力…!
> バット
どSの技が成す暗黒面(ダークサイド)には、
人の弱い意志に付け込み、心を操る力がある…。
なぜ…部長が…、暗黒面の力を!
> エリシオン
フハハハ…、我が社の社員に個々の意志など必要ない!
たった1つの神の意志さえあれば、楽園に辿り着けるのだからな!
諸君らの健闘を祈る!ハーッハッハッハーッ!!
ちくしょう、どうしよう!
部長にコントロールされてる社員さんを、むやみに殴ったら…
…査定に響いちゃう!
> バット
おいぃ!?
そこは問題じゃねぇだろ!
> アドナイ
ここは俺に任せろ…。
ほおぉぉぉ…
覚者!連環組手!!
ドサドサドサッ…
ええっ…社員さん達が倒れていく…。
やっつけちゃったんですか!
> アドナイ
相手の性感帯を突かず、ソフトタッチだけで撃退した…。
安心しろ、逝く前に寸止めしてある…。
…それはそれでキツそうね。
> いやいや、お見事でした。
さすがは覚者さん…ってところですかね。
さて、ちょいとこちらへ来て下さいや。
む…この声は。
領都で会ったあの怪しい男か。
―――
> メイソン
エリシオンは逃がしましたが…幹部の一人はおさえやしたよ。
まずまずの収穫、ですかね。
色々と、聞き出す事も出来ました。
> バット
マルセロ係長…、あんたまで…。
> マルセロ
ふふ、俺にとっちゃ、ちょっとした遊びだよ、こんなものは。
最初から、破壊だの救済だの信じてた訳じゃない…本当だ!
> メイソン
とは言え、このまま逃がすと、面倒な事になりそうですねえ…。
あっしが覚者と通じてるのもバレてしまう。
> マルセロ
待ってくれ、話が違う…!
> メイソン
ま、お任せします。
あっしはお先に失礼しますよ…。
> アドナイ
……。
> バット
聞かせてくれよ…係長。
あんた、何だってこんな事に加担したんだ…?
> マルセロ
エリシオン師はおっしゃった…。
覚者とは、流れに逆らう不遜であると。
だが…私は思うのだ…。
その方とて、話が通じぬ訳ではないと。そうとも、なあ覚者よ。
その手に血を染め、流れに逆らい、何の得があろう。
> アドナイ
…俺の意志を図ろうというのか。
> バット
ここは覚者様の覚悟次第さ。俺らはあんたの決断に従うよ。
> マルセロ
滅びはもはや必定。
ドラゴンの裁きを、静かに待とうではないか、な?
やっちゃいましょうよ、覚者様!
こんなやつ、ケツの穴から手ぇ突っ込んで、
奥歯をガタガタ言わせてやりましょう!
へっへっへ…どんなイイ声で鳴くのか、楽しみだわ!
バリバリバリーッ!
ぎゃーすっ!
指輪が痛い痛いーーっ!
> バット
へっ、ざまぁみろってんだ。
社員が自分の意志を表に出すなって言われたろ?
お前は調子に乗りすぎなんだよ。
(…死ねやっ。)
ゴスッ!
> バット
ほぐっ…!てめぇ…。
覚者サマが真剣に考えてらっしゃるんですから、
静かに待ちましょう、ね。
(帰ったらお前の減らず口を静かにしてやるからな。)
> アドナイ
俺の意志を問う前に、貴様の意志を見せてみろ…。
> マルセロ
ま…待て!そ、そうだ!
滅びの…その救いの時まで、享楽のうちに過ごそうというなら、
金は出しても良いぞ、な?
> アドナイ
……。
あっ…、やばい。
覚者サマの目がいつになくマジだ…。
> マルセロ
さぁお願いだ覚者よ。
私を見逃せば、後から必ず褒美は届けよう。
利口になるのだ、覚者よ。
私を、このまま見逃してくれ、な?
> アドナイ
…それが貴様の意志か。
こ…怖い…。
初めて見た、あんな冷たい目。
さっきみたいにソフトタッチじゃないの…?
嘘っ…止めてっ…!私のワガママだって、
どんな事でも広い心で受け止めてくれてたじゃない…。
お願いっ…!
> アドナイ
覚者!龍撃虎…!
> マルセロ
ぐ…あっ……。
―!
> バット
……。
> いやいやいや…凄いね、本当にヤッちゃったよ。
> アドナイ
…。
…まだ居たのか。
> メイソン
さすがですねえ、いやまったく。
これでめでたく、頼りになる仲間が出来たって訳ですな。
> アドナイ
……。
> メイソン
と、いう訳で…また何かあったら連絡しますよ。
一緒に、救済の連中を追い込んでやりましょうや…ね。
それじゃ、これで…。
……。
…覚者サマ。
> アドナイ
リンたん…。
そんな悲しい顔をするな。
リンたんにはいつも笑顔でいて欲しいと言ったはずだ。
でも…。
> アドナイ
…。
> バット
…おっ、おおっ?
アドナイ様ー!
係長のやつ、まだ息がありますぜ!
えっ!
> アドナイ
ちょっと待ってろ…。
…フッ…ン…!
ズキュゥーーーンッ!!
> マルセロ
…う…っ。
…く…はぁっ…!
えっえっ!?
何で逝ってないの?
> アドナイ
先ほどの技は、性感帯をあえて外して撃ち、
逝ったように見せかける為のもの。
竜者神剣が人の意志を奪い去る剣であるなら、
覚者神剣は人の意志を活かす剣だ…。
> マルセロ
う…覚者…なぜ、助けた…。
> アドナイ
さぁ、どこへなりとも行け。
> マルセロ
ひ…ひいぃ…!
覚者サマ…。
やっぱり…この人…。
> ちょっと甘かないですかね、覚者さん…。
> バット
…またメイソンのやつだ。
> 手心を加えても、こいつらはあんたに感謝したりしません…。
きっと、邪魔なあんたを殺しに来ますよ。
> アドナイ
俺は来る者を何人たりとも拒まない。
生命を育む母なる海のように、全てを迎え入れよう。
> 色々と手伝ってもらえるかと思ってたが、見込み違いだったかな。
足を引っ張られるのはゴメンなんで、あっしとはこれっきりという事で…。
> バット
けっ、せいせいすらぁ。
二度とツラ出すんじゃねぇぞ!
…。
よかったんですか…覚者サマ?
これで…本当に…?
> アドナイ
後悔するはずはない…。
第5話~完
―――
【次回予告】
てーれってー(あの曲)
ついに領王との謁見を果たすアドナイ。
しかしそれは新たな動乱の引き金だった。
高まる緊張の合間に訪れたひと時の日常に、
小さなリンの心は打ち震える…!
次回、覚者の剣
第6話「ならば愛のために闘おう」
お前はもう…死んでいる!
ご清覧ありがとうございました。