↑『りぼん』の部数低下の推移。有望な新人は多く居たはずだった。
少女漫画は元来、思春期の少女が持つ精神の愛を謳ってきた。
しかし、コミックの発行部数では少し事情が違う。
ところが、 実際の恋愛市場において精神性が二の次に置かれた事で、
若年層の間で性経験率の上昇傾向が見られるようになり、
女性は早いうちからファッション雑誌を手に取るようになった。
女性による主導権の掌握は、男性の理想のヒロイン像を打ち砕いたばかりか、
旧来の価値観に縛られたコンテンツも古くさいものに変えてしまい、
少女漫画の精神性は女性のニーズを満たさなくなったのである。
2000年代に入ると、作風も実利優先へとシフトしていき、
いよいよ精神の愛が一気に廃れていく事となった。
少女漫画界の絶対王者は、集英社発行の『りぼん』であった。
ところが2002年、発行部数で小学館の『ちゃお』に抜かれてしまう。
そして2006年には講談社の『なかよし』にも抜かれ、
2011年に2位に返り咲くまで、業界最下位の辛酸を舐め続けた。
『りぼん』は70年代~80年代後半にヒットした
"おとめちっく"と呼ばれる作風を90年代後半まで引きずり、
水戸黄門のような偉大なるマンネリ状態にあった。
70~80年代と言えば、第二波フェミニズム運動の真っ直中である。
『ときめきトゥナイト』『ポニーテール白書』『星の瞳のシルエット』と、
かつて隆盛を誇った時代の伝統的なコンテクストを、
『グッドモーニング・コール』『ベイビィ★LOVE』など、
現代風の絵柄が描ける作家がそのまま継承したが、
もはやそれは星飛雄馬が流す涙と同じ、古めかしいものだった。
その点、『ちゃお』は何もかもが新しかった。
一部の少年誌でも部数低下の傾向は顕著に見られるが、
例えば『少年サンデー』の場合だと、新人育成に失敗して
連載作品の新陳代謝が図れなかった事が大きな原因となっている。
ところが少女漫画の場合、有望な新人は発掘できていても、
その新人らに旧来と同じものを描かせ、独自性を出さなかった事が、
時代の変化に対応できなかった原因として挙げられよう。
これが少女漫画の世界に起きた、バックラッシュの顛末である。
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『りぼん』の現在の発行部数は、250万乙女に支えられた
黄金期の10分の1以下となる21万部まで落ち込み、
これは同社がティーン向けに発行しているファッション雑誌、
『SEVENTEEN』の発行部数である35万部をも下回っている。
児童から中高生まで幅広い守備範囲を誇っていた少女漫画が、
ティーン層の支持を失った事実を如実に表している。
しかし、コミックの発行部数では少し事情が違う。
王道の中の王道作品『ときめきトゥナイト』を抜いたのは、
ティーン向け漫画雑誌『マーガレット』と『Cookie』から出た、
『花より男子』と『NANA』の2大巨頭だ。
両作品に共通しているのは、芯がまっすぐで容易に折れず、
いざとなったら男性にも食ってかかる"強い女性"を描いており、
現代の女性のニーズに合致している点である。
こういった作風の変化は、2000年代に入ってから顕在化してきた。
流行を取り入れ、必要あれば精神性をもかなぐり捨てた。
特に矢沢あいはファッションにも精通していた事から、
少女漫画から離れていった読者からも絶大な支持を得る事となった。
次回は、少女漫画がいかにして精神性から実利性へと移ったのか、
『ベルサイユのばら』を見ながら、その変遷を追ってみよう。
ご清覧ありがとうございました。