漫画道場

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引っ越しました。
新ブログ「記号論研究所」を宜しくお願い致します。
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作品短評・総評

【短評】『仮面ライダー鎧武』~選び取る運命の因果律

こんにちは、道場主です。

お久しぶりの更新では、『仮面ライダー鎧武』 の学術的考察をやります。
ただ、これまでのシリーズ作品との比較も行っていますので、
今回は厳しい意見となる事をご了承頂ければと思います。

楽しまれてる方も多いでしょうし、書こうかどうか迷ったんですが、
1つの意見として参考程度に留めて下さいまし。


それでは、どうぞ。 


―――


鎧武


さっそくですが、『鎧武』にもやはりストーリー背景が設定されていました。
自然科学における自由意志因果的決定論ってやつです。 

つい最近では『ドラゴンズドグマ』というゲームがこれを扱っていて、
こちらはニーチェの哲学を背景としておりましたが、
『鎧武』の方は数学者ピエール・ラプラスの言う運命論に近いと思われます。
どちらも神性が関わっている点に注目です。


決定論というのは、人間のなすべき事は予め運命によって決められている、
という、神託にありそうな予定調和的な考え方です。
『鎧武』では北欧神話の伝説をモチーフとした「ヘルヘイムの森」に侵略され、
死の運命を辿ろうとする文明社会に投影されています。

ノルン

北欧神話にも運命の女神(ノルン)というのが居ます。
『ああっ女神さまっ』でおなじみ、ウルズ・ヴェルザンディ・スクルドの3姉妹ですね。
ノルンはそれぞれ、過去・現在・未来を司っていて、
ウルズが運命の長さを計り、ヴェルザンディがそれを糸に紡ぎ、
最後にスクルドが糸を裁断し、人間の寿命が決まります。

『鎧武』でも、3人ではありませんが、「運命」を口にする女神が登場しています。
運命の女神が紡いだ糸は、ヴァルハラの巫女が予言した
世界の終末(ラグナロク)にも繋がっていますから、
作中の舞台となる沢芽市も、終末に向かって突き進む運命が決められ、
アースガルズと同様に全てが崩壊する、と考えられます。


しかし、運命の決定は既に誤りである事が証明されています。
それが、1927年に物理学者のハイゼンベルクが提唱した不確定性原理です。

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物理学の世界では、ニュートンの運動方程式によって
粒子の動きは先まで予測が可能であるとされていましたが、
ハイゼンベルクは量子力学からのアプローチから、
運動量と位置にズレが生じて予測が不可能である事を突き止め、
その結果、ラプラスの運命論は否定されました。

哲学の世界では早くから人間の自由意志が唱えられ、
神によって定められた運命から脱却し、その後の人生を
自らの強い意思で選び取る
事を命題としてきました。
ハイゼンベルクの理論はそういった生き方を保障してくれたのだと言えます。

アーマードライダーになるベルトを手にした若者達は、
世界の行く末を知る女神から、運命の分岐点にあると忠告されます。
考え方は違えど、それぞれが強い意志を持って自分の人生を選び取る姿は、
終末に向かう沢芽市の運命も変えてくれそうな気がしますね。


―――


しかしながら、道場主の主観をお話ししますと、
これだけ背景が練られていても、今作は「面白くない」と感じています。
理由は、私が重視するのが表現力であるからです。

表現力とは、1つの描写だけで10の全てを伝える、
もしくは10の描写で1つの真意を伝える力である
と定義しています。
過去のシリーズの『フォーゼ』で言えば、希薄化する現代の人間関係を、
古典的な熱苦しさによって修復する背景があったのですが、
それを台詞によって説明するのではなく、ブレザーを着る生徒の中に
ツッパリの学ランを混ぜるだけで表現しています。

主人公に吐かせる言葉は「友情」、たったこれだけです。


『鎧武』の場合、第20話で世界の秘密が語られるのですが、
それがユグドラシル側のキーマンから長々と説明される手法が取られ、
人物描写にはあまり時間が割かれていませんでした。
ミッチーと紘汰の驚きにも共感できないほどです。
呉島主任は世界の秘密はユグドラシル社が担うべきだと主張していましたが、
日本の国家予算がいくらあるか知ってますかって話ですし。

ダンスに興じる若者達も、本気でダンスに打ち込みたいのか伝わってきません。
作品テーマが自由意志の決定にありますから、
「俺達の居場所は俺達で守る」といった趣旨の台詞ではなく、
ダンス描写に自らの存在意義を決定する強い情熱が感じられなければ、
それらが空々しいものになり、説得力に欠ける
訳です。


善吉

『めだかボックス』という漫画で、主人公の周囲の人物に太鼓持ちをさせて
主人公の凄さを説明するという手法が取られましたが、
『鎧武』に対しても、この漫画と同じ感想を持っています。


長年続いた平成ライダーシリーズにおいて、
人物描写やストーリー設定を説明以外の方法で表現した作品は、
いずれも素晴らしいものであると思いました。

今作も過去作品に負けないくらい、実によく練られた設定であると思います。
ゆえに、20話もかけて引っ張ってきた設定を、
たった30分の説明で終えてしまった事が残念でした。
 


ご清覧ありがとうございました。

【総評】『ポケットモンスターXY』~始まりと終わりの進化論

どうも、道場主です。お久しぶりの更新となります。
今回は、『ポケットモンスターXY』および同シリーズの学術的考察となります。

更新をお休みしていた間、ドラクエ10→モンハン4→ポケモンXYと、
ゲーム三昧の日々を送っておりました。
漫画要素ゼロです。 もはやなに道場なんでしょうか。


『ドラクエ10』に関しては、当道場でも2つの考察記事をアップし、
大好評を頂いた為、別ブログを立ち上げてそこで続きを書いてます。

ロザリーのアストルティア考古学


既に何度か述べていますが、日本の漫画・アニメ・ゲームには、
子供向けとは思えない隠されたメッセージを持ったものがいくつも存在し、
そしてそれは『ポケモン』も例外ではありません。

では、具体的にどんなメッセージが込められていたのか、 
『XY』と『ブラック・ホワイト(BW)』を比較しながら見ていきましょう。 


―――


まず前作、『BW』についてです。

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『BW』に登場する学術的定義は2つあります。
ユークリッド幾何学において厳密な定義付けを果たした自然数の公理と、
フランスの技術者、ベノワ・B・マンデルブローのフラクタル理論です。

この作品のキーマンはもちろん、Nという青年に他なりません。
Nの本名は「ナチュラル・ハルモニア・グロピウス」。
「ナチュラル(Ntural)」というのは自然数(Natural Number)を指しています。


Nの目的は、世界を白黒はっきり割り切る事です。
数学の公式のように調律された、美しい世界を築く事。
人間は人間同士、ポケモンはポケモン同士で生きるべきだと言い、
その為に"数学の魔術師"と渾名されるほどの天才的頭脳をフル回転させ、
義父・ゲーチスに従いプラズマ団のトップに君臨します。

自然数の公理は、自然数(N)が持つ5つの基本的な性質の事であり、
Nはその名が表すとおり、この公理に従って計算式を導き出し、
人間とポケモンを別の集合体として捉えます。


人間の世界には人間が住む事を条件として計算式を立てた場合、

 人間の世界 = { A|A は人間 }
= { 主人公、チェレン、ベル、アララギ、…}


となります。これを真理集合と言います。

人間という自然数の集合 A の中には、ポケモン入ってません。
人間に虐げられたポケモンの悲痛な声が聞こえる青年にとっては、
モンスターボールは害悪そのものです。
ポケモンはポケモンの世界で暮らすべきだと主張します。
 
 ポケモンの世界 = { B|B はポケモン }
= { ピカチュウ、カイリュー、ヤドラン、ピジョン、…}


集合AとBは別々の性質を持っている為、
自然数の公理の上では、両者が交わる事は絶対に有り得ません
これがNが持つ思考回路の背景です。


白黒


ところが、世界にはどうしても割り切れない数字がある
一般的な自然科学の中では、微小な誤差は無視して計算します。
しかし、扇風機のCMなどで「1/fゆらぎ」という言葉を耳にされた方も多いと思いますが、
万物は等しく、微妙に揺れ動いているものであり、
数学で扱うサイン曲線のような、あんな綺麗な形をしていません。
これをカオス理論といい、それを体系化したものをフラクタルと呼びます。

Nにとって主人公の存在は真理集合の枠に収まらない計算外のカオスであり、
言わば蝶の羽ばたきのような、小さなものでした。
ところがこれを誤差として扱ったがゆえに、大きな竜巻となってしまいます。
天才の頭脳をもってしても割り切れなかったもの、
それが、多様な価値観が混ざり合い共存していく世界だった、
というのが、前作の大まかな背景となります。

「共存」というのは、ポケモンシリーズの共通テーマであり、
深いメッセージ性が添えられるようになったのは『ルビー・サファイア』の頃からです。
そして最新作『XY』でも、やはりこのテーマを扱っています。


―――


続いて今作、『XY』について見ていきましょう。

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『XY』の学術的定義は、ネオダーウィニズムが提唱する遺伝子進化論と、
アメリカの生物学者、リン・マーギュリス女史の共生進化論です。

同様のテーマを『仮面ライダー剣』が扱った事があります。
テロメア係数がどうのこうの言ってたり、バトルファイトが決着しなかったり、
遺伝子を扱った作品として見所があります。


さて今作では、AZというカロス地方の古き王がキーマンとして登場します。
「A(始まり)」と「Z(終わり)」を意味する名前でしょうかね。
生命が訪れる誕生と死を、伝説のポケモン・ゼルネアスとイベルタルに準え、
AZが愛した1匹のポケモンとの悲しい物語が進行していきます。

フレア団のボス・フラダリは、かつてAZが世界を終わらせる為に作った、
ポケモンの命を犠牲にする最終兵器を利用して、
強き者が全てを奪う、適者生存の世界の誕生を試みます。
その為にフレア団は電力を奪い、モンスターボール工場を奪い、
争いに利用されるポケモンを人々から奪います。


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ダーウィンは、経済学者・マルサスの人口論をヒントに、
限られた資源を奪い合う人間の経済活動を、生物学にも応用します。
そこから生まれたのが進化論であり、『種の起源』で説かれた自然選択説です。
この説はメガシンカを行う為に必要な1つしかないメガリングを、
主人公とライバルが奪い合うシーンに象徴されています。

わざわざフラダリに説明させるあたり、かなり重要なメッセージだと分かりますね。

かつての進化論は、メンデルの法則によって否定されましたが、
そこからメンデルの考え方を取り入れ、遺伝子進化論に発展しました。
優秀な遺伝子が優先的に残されていくという、今では当たり前の考え方です。
『XY』は、X遺伝子とY遺伝子から名付けられたと見られ、
今作がダーウィンの進化論を根っこにしている事が伺えます。


ところが、自然選択説を唱えるフラダリは、主人公とライバルの前に破れ、
Nがアララギ博士に舌戦を挑んだ時のように、
増えすぎた種に共生の道があるのではないかと説き伏されます。

生物が及ぼす相互作用によってお互いが生かされているという考え方は、
提唱者のラブロック博士によってガイア理論と呼ばれています。
このガイア理論を元に生み出されたのが、原生動物の共生・合体の連続によって
1つの生命が誕生したとする、共生進化論です。

進化(植物)

参照:生物史から、自然の摂理を読み解く | 植物はどうやって誕生したか?


共生進化は、大阪大学の四方哲也教授の実験によって証明されます。
繁殖力の大きな菌と普通の菌を同じ環境に置いた結果、
両者ともに何百世代も生き残り、一定の数を保ったのです。
つまりは適者生存の否定に他なりません。

フラダリの敗北は、進化の歴史から見て必定であったという事を、
隠されたメッセージとして添えている訳です。


―――


このように、『XY』は比較的低い対象年齢をターゲットとしながらも、
背景となるストーリーには明確な意思が込められており、
今作もやはり、シリーズを通しての「共存」というテーマを追っています。

ポケモンは"子供向け"、"お子様ゲー"では決してありません。
異なる価値観を認め合う事の重要性を説いた、
子供から大人まで楽しめるゲームである、という方が正確でしょう。


特に今作は、『BW』の分かりにくい数学の話とは異なり、
命の始まりと終わりという、直にハートに訴えかけるお話になっています。
それゆえ、ラストシーンは感動を抑えきれません。

久しくポケモンから離れている方にも、オススメだと思います。


ご清覧ありがとうございました。

【ゲーム】ドラゴンクエスト10神話篇考察~時渡りの術とラーミア&エスタークの関係

こんにちは、道場主です。

ドラクエ10ずっとやってます。
ついにはドラクエ10専用ツイッターアカウントまで開設しました。

今作ではドラクエ4のロザリーさんをロールプレイしてます。
中の人のキャラが邪魔をして、清楚なエルフっ娘を演じる事が出来ませんがね。


さてさて本題ですが、今回の神話篇考察は、
好評を頂いたアストルティアとカメさまの関係を著した記事の続きになります。

前回明らかにしたのは、転生を果たした主人公の存在が、
「全ての死をあまねく」はずの冥王ネルゲルと矛盾している点でした。
主人公が持つ「時渡りの術」によって死を回避したのですが、
ではいったい"時渡り"とは何なのか。力の根源には何があるのか。

 実は、この答えがver.1.4で既に示されているのです。

毎回恒例のスーパーネタバレタイムになりますが、
7月4日から更新されるパーティー同盟クエストの公開の前に、
読んでおいても損はありませんよ。

では、どうぞ。 


―――


王者セット

↑王者セット。胸のマークに注目。


ver.1.4から本格始動した神話篇ですが、最後まで進めると、
"時の王者"として認められた証である「王者セット」が手に入ります。

さっそくロザリーさんに着てもらったのですが、
あれ?胸のマーク、どっかで見た事ありますよね…。


ロトの紋章

↑エスタード島の紋章との比較画像。
 (引用:ドラクエ7の謎解き(3)この世の彼方の海と島



この鳥の紋章、『ドラクエ7』のエスタード島にある、
謎の神殿の扉に刻印されたレリーフとまるで同じもの
なのです!

なるほど、そう言われてみれば『7』も、時渡りのストーリーでした。
石版を使って過去の世界に行き、現在起きている問題を解決するといったもの。
『ドラクエ10』でのレイダメテスと破邪舟のエピソードは、
『7』の各石版ごとのお話をなぞるような流れになっているのです。
そっくりそのまま『7』の方に盛り込まれていても、全く問題ありません。

引用元の記事にもあるように、ドラクエシリーズで「鳥」と言えば、
不死鳥ラーミアの事であると見て間違いありません。
 しかしなぜこんな所にラーミアが…?


ラーミアさんと言えば、『8』で出てきたレティスと同一である事が、
ご本人の口から語られるという衝撃の事実から判明した為、
時空を飛び越える事の出来うる存在、というのはもはや常識ですよね。

このラーミア=レティスであると新たに定義したのが、
何を隠そう『10』 のディレクターを務められる、藤澤仁その人であります。
藤澤さんは『7』と『8』の頃はシナリオスタッフを担当しており、
過去と現在を行き来するというプロットは、藤澤さんが作ったものです。
そりゃ『10』の過去編が『7』のストーリーとかぶってるのも当然。

どうやら藤澤さんは"時渡り"が大好きなようで、ドラクエシリーズ以外にも、
『エルアーク』というモバイルRPGの追加シナリオにおいて、
「時渡りの飛竜サルバ」なるタイトルのお話を書いています。

という事は、時渡りが大好きな元シナリオ担当の現ディレクターが、
最新作においてラーミアが時空を越えてアストルティアにも飛来していた
と再定義を図っていたとしても、何ら不思議ではありません。
何より、王者セットの胸のマークがそれを証明しているのです。


同じ時渡りのストーリーである『ドラクエ7』と『ドラクエ10』が、
同じ人によって作られたという点を考慮すると、
エスタード島のレリーフと王者セットのマークが一致しているのも、
必ず隠された意味があるはずです。

ラーミアはなぜアストルティアにやってきたのでしょうか。


―――


『ドラクエ10』が過去作のお話をモチーフにしている所は、もう1つあります。
それは、レンダーシアを襲った魔瘴と死です。

では、ドラクエシリーズで最初に魔瘴が出てきたのはどこだったか?
ドラクエファンの方なら、もちろん記憶にあるでしょう。

そうです、『ドラクエ4』のアッテムト鉱山です!


鉱山夫A
 こうざんから へんなガスが わいてきて
 ひとが ばたばたと たおれたんだ。

 ゴホゴホ……。


鉱山夫B
 ゴホゴホ……。 いのちが おしかったら
 こうざんには はいらないことです。

 へんなガスが でたときから
 まものたちが あらわれはじめて……。
 ゴホゴホ……。



これも『10』のお話と一致してますよね。

冥王ネルゲルは魔瘴の力を使ってアストルティアを危機に陥れましたが、
その力の根源は、空を切り裂いて別の所から持ってきてます。
そして賢者ホーローは、その根源を叩かない事には、
レンダーシアを包む魔瘴は晴れないと主人公に伝えています。

では、魔瘴の力の根源っていったい何なの?


エスターク

↑神話篇ラスボス。あれ?どこかで…。


はい、これも言うまでもありませんね。
アッテムト鉱山奥の神殿より現れた、地獄の帝王・エスタークです。
今作でも光の河の地底から這いずり出てきて、
落葉の草原にあるガケっぷちの村を一瞬で吹っ飛ばしています。
冥王ネルゲルは魔瘴をもたらす存在を「闇の根源」と呼んでいますので、
ネルゲルをあの姿に変えた手は、エスタークであったと思われます。

そしてこのエスターク様、ラーミアと同様に時空を越え、
『ドラクエ5』の隠しダンジョンに登場しています。
そして『10』の神話篇でも、ついにその姿を現した…。
つまりこれは、エスタークにも時渡りの力があるという事に他なりません。


エスタークは進化の秘法によって、常に襲ってくる睡魔と代償に、
究極の生物へと進化し、不老不死の肉体を得ています。

天空城書庫:『戦いの歴史』より
 遥か昔、魔族の王エスタークは恐ろしいものを創りだした。それは進化の秘法。
 エスタークはその力で自らを神をも超える究極の生物に進化させた。

すなわち時渡りとは、不老不死である事を必要条件とした、
時間を超越する力であると考えられます。


問題は、なぜエスタークが登場した新シナリオで、
王者セットにある鳥の紋章もわざわざ出てきたのかにあります。

あまりにもタイミングが良すぎです。

ですが、これもやはり藤澤ディレクターの計算の内であると考えれば、 
ここまで述べてきた全ての謎に合点がいくはず。 


王者セットの鳥の紋章は、時渡りの術の使い手が、
時空を越えてアストルティアにやってきたラーミアの加護を受けた証でしょう。
不老不死の象徴であるカメさまの転生を受けて蘇った主人公が、
不死鳥の力を根源とする王者装備に身を包むのに違和感はありません。

それと同様に、全ての死をあまねく存在である冥王ネルゲルが、
同じく死を司る帝王エスタークの魔瘴の力を根源とし、
生きとし生ける者の脅威となっていましたよね。
アッテムトの町を死に至らしめた根源の力を借りて死神の鎌を振るっていました。

つまり神話篇は、不死の象徴ラーミア vs 死の象徴エスタークという、
これまで主人公とネルゲルが代理戦争を戦ってきた生と死の物語の続編
であり、
全ての舞台が整い、役者が揃ったという事なのです。

実は両者は1度、ネルゲルの心臓から脱出する際に対峙しています。
ネルゲルを包み込んだ手が襲い掛かって来た後、
地底に落ちた主人公を救ったフルッカの操る破邪舟は、
まさに光の鳥の姿をしていたのです。

ラーミアはおそらく、地獄からの使者であるエスタークを討ち果たす為に、
アストルティアを守る主人公に力を貸すのでしょう。


―――


これを考えた藤澤さんは、オンライン化した今作の欠点も相まって、
様々な批判を一身に浴びてこられましたが、道場主はその意見に同調しません。
むしろ過去のシリーズを最もリスペクトし、最新作にも踏襲して、
登場させるキャラを再定義してプレイヤーに提示し納得させる力量を持った、
稀代の敏腕ディレクターという印象の方が強いです。
『10』への批判は、ハードに起因したシステム面の不都合に集まってますし、
ストーリーが悪い、という声はほとんど聞いた事がありません。

さあ、そんな藤澤さんが、この台詞を覚えているかどうか。
記事の最後に、エスタークが倒された後のデスピサロの台詞をご紹介しましょう。


 な なんということだ!
 エスタークていおうが たおされてしまうとはっ!

 しかし よげんでは ていおうを たおせるものは
 てんくうの ちをひく ゆうしゃのみ!
 まさか おまえたちは……!? 



てんくうのゆうしゃ…? 天空!?

そういえば神話篇のベースになったグレイナル叙事詩は、
『ドラクエ9』の主人公が、空の英雄と呼ばれる光竜・グレイナルに跨って、
ガナン帝国が従える黒い闇竜・バルボロスと戦う話でしたよね。
そして『10』の主人公に王者セットを渡したのは、
天使の像にかたどられた、『9』の主人公とおぼしき声…。

え…?
は? マジか。

7月4日以降のクエストで、天空シリーズを想起させる何かがあるなら…。
フジゲルを髪…じゃなかった神と崇めなければならんかもですね。


考察の続きはこちらから↓
【考察】01.ドルワーム王国と太陽の石 : ロザリーのアストルティア考古学

好評だったので別ブログを立ち上げました。
こちらも是非宜しくお願いします。 
  


ご清覧ありがとうございました。

【総評】『高校球児ザワさん』~エピファニー文学を継承したポスト萌え


高校球児ザワさん

↑「フェチすぎる野球マンガ」として紹介された本作。
 その本質はどこにあるか。



オリンピック競技から野球が除外された理由をご存知でしょうか。
人気や競技人口は、実は小さな問題に過ぎません。
野球の世界組織である国際野球連盟・IBAFは5大陸130カ国が加盟しており、
そのうち77カ国では国内リーグ戦を実施、
IOCの求める3大陸50カ国規定をクリアしているからです。

では、なぜ除外に至ったのか?
理由の1つは、「女子種目の規定が最も遅れた競技だから」です。
背景にあるのは野球競技の国際ルール導入への遅れで、
アレクサンダー・カートライトが1845年に作った塁間距離などの他は、
細かいルールのほとんどが世界共通ではない為に、
ストライクゾーンや使用する用具ですら曖昧なまま、
国際基準に合わせる為に導入された統一球を使う事にも批判が出るのが、
野球という極めて保守的なスポーツなのです。
こんなんでよく国際大会とか開けるよねっていつも疑問。

当然ながら女子種目の規定も進むはずもなく、
男子は野球、女子はソフトボールという二分化が進みました。
エレン・ウィレ女史の呼び掛けで男女同一ルールを採用したサッカーや、
その後のなでしこジャパンとの活躍と比較すれば、
IBAF女子ワールドカップで日本が3連覇を果たした女子野球なんて、
あれ? 女子ってソフトをやるんじゃないの?
という認識がまず最初に出てくる、悲しいほどの低い知名度しかありません。
女子選手も男子と同じように野球をやるべきだと、
IBAFが国際的な働きかけを始めたのは、2000年代に入ってから、
女子サッカーより実に10年以上も遅れての事です。


漫画やアニメには、水原勇気やメロディちゃんなど、
男子選手と同じ舞台に立ったプロの女子選手が居ますが、
現実では1991年の野球協約の改訂まで、女性はプロになる事を、
何とルールの上で認められていませんでした。
高校野球に至っては、女子選手のメンバー登録と公式戦出場を、
高野連の大会参加者資格規定により、いまだに認められてはいません。
それどころか、練習試合ですら相手校の事前承諾が必要です。
多くの女子選手は、中学まで野球をやっていても、
高校ではまず続けられないので、ソフトに行くしかないのです。

現在のオリンピックでは、こうした性差別を撤廃する動きがあり、
「男女同一のルールで行う」ことは特に重点となります。
男子は硬式野球を、女子はソフトをやってる実態がある野球競技は、
オリンピック種目として相応でないという判断が下されました。

今回は、野球界に横たわる暗黙のルールを踏まえながら、
高校野球における女子選手という存在の特異性をあぶり出した作品、
『高校球児ザワさん』を評してみたいと思います。


―――


何を隠そう、道場主はソフトボールの選手でした。
五輪競技から除外されていなかったら、今でも続けていたでしょう。
社会人の道を断念してスポーツ関係の新聞記者になりましたが、
やはり、ソフトも野球も大好きだからこそ、
スポーツに関われる仕事を選んだのかも知れません。

『高校球児ザワさん』の主人公・都澤理沙ちゃんも、
ただ野球が大好きだという理由で、公式戦に出られないのを知りながら、
野球エリートの兄を追って甲子園常連の強豪校・日践学院に入学し、
男子選手に混じって、日々練習を続けています。


女子選手と男子選手の運動能力を比較すると、
「女松坂」の異名をとった小林千紘投手の球速が130キロ台ですから、
女子のトップ選手が、男子中学生と同じくらいだと考えて下さい。
サッカーでも、なでしこジャパンが高校生と試合をしたら、
高校生の方がメタメタに勝ちます。それほど男子と女子は違います。

しかしそれはトップレベルを比較した場合に限ります。
そこらへんの高校に130キロ投げられる選手が入学すれば、
公式戦の登板機会なんていくらでもあります。
ゆえに、130キロ投げられない男子が規定上ではベンチ入り可能なのに、
130キロ投げる女子がその機会すら与えられないのは、
高野連め…ぐぬぬ、と思いたくなるのが女子選手の必定ですよね。

理沙ちゃんが他と違う点は、入学したのが野球の強豪校であった事です。
インタビューで「実戦では使えない」と自己評価を下した通り、
仮に理沙ちゃんが女子のプロ選手並みの力を持っていたとしても、
「130キロの投手」では、地区予選を勝ち抜くどころか、
強豪校ゆえに、実戦に登板させてもらえる事すら難しい。



『ザワさん』の特徴は、フェミニズム観点の一切を排除している点です。
理沙ちゃんは日践学院硬式野球部の一員として、
思いっきりビンタされる事もあれば、罰として坊主になる事もあります。
完全な男女同列の極めて過酷な環境の中で、男子選手から浮いて見えてしまう、
気になって気になってしょうがない女子選手の特異性を、
理沙ちゃんの周りの男子選手の視点から、毎回8ページずつ描いています。


―――


さて、第三者の視点から対象となる人や物を描くのは、
『よつばと!』の回で解説した通り、あの川端康成も用いた、
モダニズム文学の典型的な手法ですね。

探偵シャーロック・ホームズがいかに頭が切れるかは、
助手のワトソンの視点から描かれる事で、より強調されて伝えられます。
ワトソンのズボンの裾に付着していた泥の撥ねを観察して、
ワトソンがロンドンのどこを散歩していたのかを言い当てる事は、
地質学に精通するホームズにとって朝飯前なのですが、
ワトソンにとっては驚愕する他ありません。
読者である私達も、どちらかと言えばワトソンと同じ凡人ですから、
ワトソンの視点で描く方が、その驚きに共感できるという訳です。
作者のコナン・ドイルは狙ってこれを書いています。


同様に、女子である理沙ちゃんが頭を坊主に丸めるのは、
男子部員にとっては「うわぁ…」と、思わず言いよどんでしまう事件です。
女性にとって頭髪は、命に例えられます。
AKB48の峯岸みなみさんが懲罰で坊主にした時は、
AKBファンのみならず、国内・海外に大きな波紋を呼びましたよね。

理沙ちゃんは他の男子部員と同じ単なる野球バカであり、
ごく普通に野球に打ち込んでるだけなのですが、
野球という男社会の中では、女子選手の存在は異端そのもの。
まして女性が坊主にするなど、正気の沙汰ではありません。

その他、勝負事に対して貪欲であったり、
女として扱われる事に戸惑いを隠せなかったり、
チームメイト達が発見する、理沙ちゃんに対する驚きは、
「野球は男性がやるもの」と固定観念を持っている一般読者にも、
そっくりそのまま、ストレートに伝えられます。



モダニズム文学において、"発見"の楽しさを教えてくれたのは、
アイルランド出身のジェームズ・ジョイスという作家です。 

ジョイスは、故郷・ダブリンの町を散文に残す事で、
ダブリンとそこに住む人達の特徴を"発見"していきました。
そして1914年、短編集『ダブリン市民』を発表。
老若男女さまざまな点景から織り成されるストーリーによって、
ダブリンとはどういう町であるのかを、浮き上がらせるように書いています。

ジョイスはこうした"発見"の事を、エピファニー(顕示)と呼んでいます。
エピファニー文学は、小さな"発見"を積み重ねる事で、
全体の大きなイメージを類推させる文学です。
『高校球児ザワさん』はジョイスと同じ文学技術が用いられている作品で、
エピファニー文学そのものと言っても差し支えありません。


―――


「萌え」も、伝統的に第三者の視点から描写されています。
ですが、もともとこれは主人公から主体性を奪ってキャラを薄めた上で、
ヒロインとなる人物像に主体性を移し、より萌えさせるように生み出された、
モダニズム文学と関わりない、キャラクター性に誘導する為の技術です。

ここから文学に転じさせるには、各々のキャラクターに対して、
ジョイスのような鋭い洞察が加えられる必要があります。
ところがこうした作品群は、属性によってキャラを差別化する事にのみ腐心し、
心理状態が深く掘り下げられる事はめったにありませんでした。


かつては『ザワさん』も萌え作品の一部として捉えられ、実際にメディアからは、
脇の処理の甘さやアンダーシャツから浮き出た肢体を克明に描いた、
フェチすぎる野球マンガ」として紹介されました。

「萌え」を下地とした作品群からは、まったくの偶然ながら、
『ザワさん』のように、たまに文学の域にまで高じた作品が出ます。
『ザワさん』が本当に伝えたかったのは、理沙ちゃんのフェチっぷりではなく、
野球競技が置かれた性差別の問題であったと思います。
ジョイスがダブリンの町の抱える停滞問題に直接言及する事なく、
第三者の言動に反映させる形でそれを抽出させたように、
野球界の封建的な性差別を、理沙ちゃんの障害として描く事で、
読者の誰もが、問題として"発見"に至ります。

作者の三島衛里子先生が、ジョイスと同様に点景で野球を洞察していたから、
野球について深く考えさせられる作品になったのでしょう。
ポスト萌えは、こういった所から生まれるのかも知れませんね。


さて、五輪復帰を目指して男女同一ルールの採用を決めた野球競技ですが、
この度、野球のIBAFはソフトボールのISFと統合し、
今年4月に世界野球ソフトボール連盟・WBSCとして発足しました。
試合時間短縮の為、五輪ではソフトボールの方に合わせて7回制になるそうです。

これに非難ごうごうなのが、野球ファンのおじさま方。
男社会の面子として「そんなの野球じゃねぇ」とのたまっております。

そもそも、野球競技自体がでたらめなルールの下でやってたんですから、
ルールを体系化する事には前向きであってもらいたいものです。
 


ご清覧ありがとうございました。

【ゲーム】ドラゴンクエスト10考察~なぜアストルティアは亀の形をしているのか

お久しぶりです、道場主です。

3ヶ月ほど更新をお休みしてました。
何をやってたのかというと、『ドラゴンクエスト10』をやってました…!
WiiUデビュー組だったんですが、昨日ようやくエンディングを迎えましたよ。

あれ?以前にこんな記事を書かなかったっけ? 

…なんて いう人は今さら居ないでしょうから、
今回は以前から疑問に思っていた事を、記事にしてみようと思います。


その疑問とは、ずばり…
なぜアストルティアは亀の形をしているのか?

恒例のスーパーネタバレタイムですので、ご注意あれ。
では、どうぞ。 


―――


 アストルティア

 ↑アストルティアの地図。


さっそくですが、まずは上の地図を見て頂きましょう。
全国500万人のドラクエファンの皆さんならご存知、
『ドラクエ10』の冒険の舞台となる世界、アストルティアです。

今作のストーリーは、アストルティアの中心部・レンダーシア大陸の小島に住む、
エテーネ村の2人の兄弟(姉妹)を主人公にした話です。

レンダーシアには人間種が住んでいて、そこにエテーネの民も含まれます。
そしてその周りにはタイトル名にもある5つの種族が暮らす大陸があり、

 左上…オーグリード大陸 (オーガ)
 左下…ウェナ諸島 (ウェディ)
 右上…エルトナ大陸 (エルフ)
 右端…ドワチャッカ大陸 (ドワーフ)
 右下…プクランド大陸 (プクリポ)

となってます。


カメさま

エテーネ村にはカメさまという守り神が居て、
普段はじっとしたまま寝てるんですが、村に何か大事が起きれば、
すっくと立ち上がってエテーネの民を守ってくれるんです。

今作の主人公は、「カメさまの申し子」と村の人達から呼ばれていて、
村人の1人であるチマ婆さん曰く、

 カメさまの申し子には 特別な使命がある
 ……なんて言う人もいるけど xxxxは
 自分の生きたいように 生きればいいんじゃよ


との事。

申し子とか言われても何だかよく分かりませんが、とにかく、
主人公は「亀」と何らかの関わりがあるのでしょう。
序盤のストーリーを進める事で、少なくとも"特別な使命"というのが、
主人公だけが使える「時渡りの術」と関係している事も分かります。


で、ここからが本題なんですが、なぜ「亀」をストーリーの主軸に据えたのか、
という疑問を、今作の謎を解く為の中心定義として捉えた場合、
なんとなーく、アストルティアが亀の姿に見えてくるんですな。


ウェナ諸島北部にある湖に囲まれた白くて丸いのが、
ウェディの女王が治めるヴェリナード城下町という所なんですが、
さて、この部分って、「目」に見えませんか?
でで、ヴェリナードの周りの山深い部分が「頭」に見える。

そこから辿って見てみると、紫の霧がかかったレンダーシアが「甲羅」に、
その他の大陸が「手足」のように見えてきますよね?

…見えてくるんだよ。


―――


では、「亀」を主軸としたストーリーの謎とはいったい何なのか。
これを紐解けば、疑問が確信に変わるかも知れません。


「カメさまの申し子」である主人公は、血を分けた兄弟(姉妹)と共に、
エテーネ村で錬金術師として暮らしていました。

ある時、カメさまのお告げを聞いたエテーネの村の長・巫女アバ様が、

 まもなく このエテーネの村は……
 大いなる災厄に見舞われ 滅びる!
 エテーネの民は ひとり残らず
 死に絶えるじゃろう!


なんていうおっかない預言をエテーネの民の前でおっぴろげます。
騒然となる村民を前に、お告げには続きがあり、
北の果ての洞窟に咲く伝説の花があれば、滅亡の運命から逃れられる、
という旨も伝えます。たかが花いっこで村を救えるってどうよ。

まぁ何かしらの霊験あらたな伝説の花とやらを取りに、
もちろん主人公とその兄弟も選ばれ、すぐに村を出立します。

ところがアバ様は、災厄から逃れられるのは、
実はたったひとりだけである事を村民には伝えてませんでした。
この事実は、一緒に伝説の花を取りに行ったアバ様の孫・
シンイの口から、主人公に告げられます。

洞窟には魔物が先回りしてて、花を焼き払ってしまいましたが、
主人公の兄弟が謎の眼力を発揮して、1つだけ残っていた花をゲット。
すぐに村に戻りますが…既に村からは火の手が上がっていました。


ネルゲル

村を襲う災厄とは、全ての命の「死」を統べる存在・冥王ネルゲルが、
エテーネの民に伝わる「時渡りの術」の血を絶やすべく、
おびただしい数の魔物を引き連れて村ごと壊滅させる事だったのです。

壊滅した村に戻った主人公達でしたが、魔物がふいに放った
巨大な炎の塊が、主人公の兄弟の背後を飲み込もうとした、

その瞬間…!

主人公の中で眠っていた「時渡りの術」が無意識のうちに発動、
周囲の時間を停止させ、危機に瀕した兄弟を
過去の世界のレンダーシア大陸に飛ばしました。


これをしっかり目撃していた冥王ネルゲル様。
死神の鎌を取り出し、月夜の空を切り裂いたかと思うと、
そこから生命を脅かす紫の霧=魔瘴を大量に噴出させます。

魔瘴はちょっと吸っただけでも苦しみ悶え、頭がおかしくなり、
必ず死に至らしめるという大変に危険なもの。
これで何とレンダーシア大陸全体をすっぽり覆ってしまいました。
上の地図にある紫の霧は、ネルゲル様の仕業ですね。

この霧が原因で、最期まで奮闘した主人公も死んでしまいます。


実はこの後、ストーリー上から見ても大変重要だと思われるシーンが、
さらっと流れるのです。道場主はここに注目しました。


―――


カメさま

 ↑問題のシーン。


村の危機を察知したカメさまは、覚醒してすっと起き上がり、
背中の甲羅に光を集め、5つの光球を射出します。

このうちの1つが、死んだ主人公の中に入り込み、魂と融合して、
オンラインモードの開始場所となる神殿に飛んでいきますが、
おそらく射出された5つの光球には、神殿内にある5つの種族像に象られた、
それぞれの種族の神様の力が宿っていると考えられます。

神様の名前は、ドルワームの書庫で確認する事が出来ます。

 炎の神ガズバラン (オーガ)
 水の神マリーヌ (ウェディ)
 風の神エルドナ (エルフ)
 地の神ワギ (ドワーフ)
 花の神ピナヘト (プクリポ)

となってます。

これら神様の力が宿った光球が、肉体を失った主人公の魂を導き、
同じ日に死んだ別の種族の体に転生させます。
この時、カメさまなのか種族の神なのか分かりませんが、
主人公は天の声からこう告げられます。

 さあ お行きなさい。
 母なる大地 アストルティアへ。

 そして探すのです。 
 あなたの使命を。
 生まれ変わることの意味を……。


今作の主人公は、カメさまの申し子である自分の使命、
そして転生するに至った意味を探す旅に出るのです。


さて話が前後しますが、光の力が主人公に宿った事がなぜ重要なのか?
重要なのは、光球そのものではありません。
5つの種族の神様の力を宿した光が、なぜカメさまから、
しかも背中の甲羅から上方に射出されたのか
にあります。

RPGによくある光の力とかを持ってる人なら、
普通は手か、もしくは目などから、前方に射出しますよね。
いや人じゃなくてカメだからなのかもしれんですが、
そもそもエテーネの民の守り神であるはずのカメさまが、
なぜ別の大陸の5つの種族の力を持ってたのかがまず気になります。


石碑1

実はこのシーンの謎を解く手がかりが、エテーネ村のすぐ近くの
育みの大地にある石碑文に残されています。以下はその前段です。

 神より与えられた この広い世界で
 我らは 姿の異なる仲間たちと チカラを合わせ
 支え合い  共に暮らしてゆくと誓った。

 その誓いが 永遠であるよう願いを込めて
 世界の中心である この場所に
 愛すべき仲間たちの姿を残す。 


ここから読み取れるのは、エテーネの島がアストルティアの中心にある事。
エテーネの島は外界から遮断されていたと、転生が行われた神殿で、
天の声が教えてくれるのですが、どうやらかつてはエテーネにも
人間以外の別の種族も行き交っていた事が分かりますね。
そして種族共生の誓いを立て、永遠に守られる願いをかけたともあります。


種族共生のストーリーイベントは、ここからずっと後、
別の種族の姿を借りて成長した主人公が、時渡りの術を使って、
500年前の過去の世界を死の恐怖に陥れた、
偽りの太陽・レイダメテスを破壊する時に発生します。


石碑2

そしてエテーネの島にはもう1つ、伝説の花を取りに行った洞窟に、
過去の歴史が記された石碑が残されています。

 この世界で 平和に 暮らしていた
 すべての 生きとし生ける者は
 滅亡の危機に さらされた。

 今 空には ふたつの太陽が 昇っている。
 ふたつめの太陽…… それが現れてから
 この世は 地獄と化してしまったのだ。

 いまわしき ふたつめの太陽は 自在に空を駆け
 大地を焼き 海を干上がらせ
 人々を 灼熱の絶望に おとしいれた。

 太陽が ふたつになった理由など 知る由もない。
 わかっていることは 地上に 生きる者すべてが
 滅亡しようとしているということだけだ。


「ふたつめの太陽」とは、レイダメテスの事です。
レイダメテスは冥王を生み出す為の卵。死者の魂を糧としていて、
岩をも溶かすほどの灼熱地獄で地上の人々を死に追いやり、
その魂を吸収して暗黒の力を蓄えていた事は、
レイダメテスの守護者・ラズバーンが語っていた通りです。

このレイダメテスを破壊する時、飲み水をめぐって対立していた
それぞれの種族はお互いに手を取り合い、協力します。
おそらくエテーネ村の近くの石碑は、破壊を終え安息を取り戻した後に、
それぞれの種族が集まって造られたと推測されます。


では、なぜ永遠の誓いを立てた場所が、エテーネ島だったのでしょうか。
そしてなぜこれがカメさまと関わりがあるのでしょうか。

察しの良い方はもうお分かりでしょうね。
亀は不老長寿の象徴であり、永遠に続く事を意味します。
そして亀の甲羅は、神話上では世界を支えているという伝説が実際にあるほど、
硬くて丈夫なものとして、多くの人に信じられています。

つまり、固く誓った約束事をさらに固いものにする為に、
亀の守り神に守られたエテーネの地で誓い合ったという訳です。
しかも脆い手足に表される世界の端っこの方ではなく、
硬い甲羅のある中心部分、世界の中心部で。
だからこそカメさまには外界の5つの種族の神様の力が宿っており、
亀の甲羅のように固い絆で結ばれたアストルティアの世界は、
レンダーシア大陸を甲羅に見立て、全体が亀の姿をしているのでしょう。


ゆえに、カメさまは5つの種族神の力を取り出す時、
それぞれの種族が神に固く誓った背中の甲羅から、上方に射出したのです。


―――


世界が亀に守られていると仮定した場合、冥王ネルゲルとの対比も生まれます。


ネルゲル

ネルゲルはエテーネの村に降り立った時、こう言い放ちます。

冥王とは あまねく 死を統べる者。
生きとし生ける者が 死から逃れられぬように
何人たりとも 我からは 逃れられぬ。


そして成長した主人公が再度、自らの前に現れた時も、

冥王とは あまねく 死を統べる者。

そして生きとし生ける者は すべて
死からは 逃れられぬのだ!!


と、わざわざ同じ内容の台詞を2回も強調して言ってます。
それほど重要な意味がこの台詞の中に込められているのでしょう。

冥王の卵であるレイダメテスが死者の魂を吸収していたように、
卵から生み出た冥王ネルゲルも、死者の魂を刈り取って
自分のものにしていると、冥王の心臓に囚われていた霊魂が言ってましたね。


つまり、冥王はその名の通り「死」を象徴する存在であり、
万民を必ず死に至らしめなければならない運命を背負っています。
「生」を象徴するカメさまと、カメさまの申し子である主人公とは、
180度異なる、真っ向から対立するものなのです。
カメさまの力は鉄壁ガード。そして兄弟を守った主人公の力は、
時間を操って死ぬ運命を回避する事の出来る力ですが、
「すべての死を統べる」と言った冥王の台詞とは矛盾が生じます。

冥王の立場からしてみれば、肉体を死に至らしめても、
魂を別の肉体に宿し、自分を産み落とした卵も破壊しやがり、
挙句の果てに船まで造って居城へ乗り込んで、2度も対峙を果たしてくるなど、
主人公はこの上ないくらい厄介極まりない存在です。
ゾンビか何かのような、肝の冷える恐ろしさすら感じた事でしょう。
しかしそこは流石は冥王、おくびにも出しません。
自分の存在意義を再度語って聞かせる余裕すら見せます。


ここから分かるのは、全ての死を司る冥王ネルゲルが、
全ての生を司るカメさま(と申し子)の住む地を真っ先に攻撃した理由
です。

亀をぶち殺すのなら、脊髄などの中枢神経の通る甲羅を破壊するに限ります。
ここさえ抑えてしまえば、残った手足を征服するなど容易いはず。
冥王は、万民を死に誘う布石を打ったのです。
なるほど、伊達に下まつげは生やしてないな、理にかなってる。


―――


これまでの考察まとめです。


 ・ カメさまは不老長寿の象徴。5つの種族神の力を背中の甲羅に宿している。
 ・ 主人公は生を司る存在。時間を操って死の運命を回避できる。
 ・ 5つの種族はカメさまが居る世界の中心の地で種族共生の固い誓いを立てた。
 ・ 共に生きる永遠の誓いを象るべく、アストルティアは亀の形をしている。
 ・ ネルゲルがあまねく「死」を象徴する存在なら、主人公の転生はそれに矛盾する。



以上となります。



5月16日には4度目の大型アップデートがあり、ver.1.4として、
神話篇のストーリーが新たに始まるみたいです。

前作『ドラクエ9』は、旧約聖書の創世記を元にしたストーリーでした。

 元始に神天地を創造たまへり
 地は定形なく曠空くして黑暗淵の面にあり神の靈水の面を覆たりき
 神光あれと言たまひければ光ありき
 神光を善と觀たまへり神光と暗を分ちたまへり
 神光を晝と名け暗を夜と名けたまへり夕あり朝ありき是首の日なり


~旧約聖書 創世記より

創造神グランゼニスは女神セレシアを作り、人間と人間界を作りました。
しかし、人間の創造が失敗であったと考えたグランゼニスは、
魔獣アルマトラを作り、人間を滅ぼそうとします。
これに反対したのが女神セレシアで、その姿を世界樹に変え、
グランゼニスの考えに無言の抗議をします。

セレシアの人間を思う心に打たれたグランゼニスは、
天使界と天使を作り、人間の善意を見守る事にしました。
それから長い時が経ち、人間の善意が世界樹に集まって実った
女神の果実を口にした前作の主人公が、神から切り離され、
人間として生きるようになった、というのが前作のあらすじ。


神話というのは、神様のお話ではありません。
神様から切り離された人間が語り継ぐ為に作ったお話です。

『ドラクエ10』神話編の予兆クエストで、「星空の守り人」という
前作『9』のサブタイトルを表すキーワードがばっちり出てきましたから、
神様から切り離されたその後の世界がどうなったのかを
説明するストーリーになるはずです。


現実世界の神話では、その後の世界は「大洪水」に見舞われます。
人間は災厄を乗り越えるべく、ノアの箱舟を建造し、
動物のつがいも1組ずつこれに乗せ、大洪水を回避します。

さて、予兆クエストで示されたゴフェル計画と、
箱舟=大陸間鉄道が指し示す、人間の進むべき道はいかなるものか、
第2回の考察で解き明かしていきましょう。

  


ご清覧ありがとうございました。

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