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↑アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』第16話のサブタイトル。



漫画やアニメなどのサブカルチャーに対する理解は、
それを支持する「オタク」と共に、有意水準の壁の向こうに追いやられている。

「オタク」の不幸は、ここまではまだ入口の段階だ。
存在を否定された「オタク」は、嗜好を理解をされないばかりか、
嫌悪の対象として一般的に認識されるようになった。
趣味に投資してきた分、ファッションに投資してきた人に比べて、
トレードオフで"見た目"の有意水準をクリア出来なくなっていたからだ。

カフカの『変身』に出てくる主人公のグレーゴルは、
ある日の朝、起床した自分の姿が巨大な害虫に変わっていた。
薄気味悪い姿に、妹のグレーテをはじめ、家族一同も嫌悪感を示す。
グレーゴルには家族に対する変わらぬ愛情が残っていたのだが、
家族は彼を次第に見放していき、彼は"絶望"して死に至る。
"見た目"は、人格ないし存在まで否定される理由にさえ成り得るのである。


こうなるともはや出力の有意差など関係ない。
オタクのステレオタイプが浸透するようになった頃から、
おおよそ"ボサボサの黒髪"で、"ダサいメガネ"をかけ、
"無粋な格好"をしている人なら、異常な値を出すに違いないと、
"見た目"でレッテルを貼られるようになった。
逆に、共通理解をされている"おしゃれな格好"の人などは、
正常な値であると見なされる事も多かった。


恋愛市場には、標準偏差というものが確かに存在する。
少女漫画論の回で述べたように、自分の理想をベースに
ルックスやファッションなど多岐にわたって有意水準が設けられ、
その水準内に正規に分布されているものだけが、恋愛対象となる。

これらの傾向は、『げんしけん』によく表されており、
イケメンの「高坂真琴」と、そうでない「斑目晴信」は、
同じアニオタでも一般人の「春日部さん」からの扱われ方が全然違う。
かたや「春日部さん」と交際し、自分の趣味を披露しても甘受される。
かたや日陰者で、「春日部さん」の鼻毛を指摘すればグーで殴られる。
変身したグレーゴルと同様に、"見た目"の有意水準に従って
「生理的に無理」という判定がなされているのだ。

いつしか「オタク」はこうした不条理な有意差に対し、
「ただしイケメンに限る」という言葉を使うようになった。
この言葉は、イケメンを否定しているのではない。
正規分布から外れた孤独な自分に"絶望"する、自己否定の言葉である。


―――


カフカはニーチェの実証主義の影響を受けており、
自分にとって、また他者にとっても誠実でありたいカフカは、
実証の過程を飛ばして決め付けを図る現実世界から乖離した存在だった。
文学を揶揄する偏見に満ちた父親への反目は、
かえって自分の中の文学意欲を高め、そして孤独にした。

カフカの文学は、彼が死ぬまで一般的には注目されなかった。
それは、彼はユダヤ人だった事も関係していると思われる。
しかしその死後、少ない理解者達によって彼の名前は世界中に広められた。
今では20世紀最高の文学に数えられるほどの人物が、
このような孤独な人生を歩んでいようとは、何という不条理だろうか。


実存哲学の祖として知られるデンマークの哲学者・キルケゴールは、 
こうした不条理を、著書『死に至る病』の中で以下のように説明している。
一般の人は、自己自身であろうという大それた事をせずに、
群衆の中に混じって他の人と同じようにしてる方が安全であると考えるが、
自己自身であろうとする人にとってそれは"絶望"である、と。

「斑目」はオタクファッションを「春日部さん」に笑われ、
「オタク」に見えないような服を買いに街に出るが、値札を見て愕然とし、
「買い物は自分の判断で決める。なぜならそれが自分そのものである。」
と、自己自身としての精一杯の矜持を口にしている。
(しかし、彼は結局それなりの値段の服を買い、妥協をするのだが。)

漫画オタやアニオタは、カフカと同じ苦悩を抱えている。
「オタク」にとって自己自身であろうとする行為は、
一般の人から見る有意水準から外れたものであっても、
彼らにとってはそうしなければ生きる価値が見出せないものだろう。
それを止めてしまえば、自分が死んだのと同じである。
だからこそ、「オタク」は奇異の目で見られ、たとえ嫌悪されても、
自己否定という死に至る病="絶望"と戦いながら、
自己自身を確認する為に、「オタク」としての矜持に生きるのだ。


『死に至る病』は、『新世紀エヴァンゲリオン』にて、
アニメ版の第16話のサブタイトルとして使用されている。

この作品がなぜ、オタクから絶大な支持を集めたのか、
次回は、主人公・碇シンジくんの心の葛藤を探ってみよう。

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