20世紀少年

↑"ヒーロー"を表す、地球防衛軍のシンボルマーク。



19世紀が「理性の時代」と呼ばれるのに対し、 
20世紀は「感性の時代」だと言われている。 

感性の時代は、1900年に行われた5度目のパリ万博で幕を開ける。 
19世紀最後となったこの年、フランス美術100年展が催され、 
新古典主義から印象主義への変遷を振り返りながら、 
後期印象派が生んだ象徴主義に彩られる20世紀を展望した。 

これと同じ年、象徴主義を代表する画家、パブロ・ピカソが、 
世界中の芸術家が集うパリの地を初めて訪れた。 
翌年1901年には、パリで自身初の個展を開催するに到り、 
以降、幾度も作風を変化させながら表現を追求していった。 

表現の極地へ登り詰めたピカソは、1937年の第7回パリ万博にて、 
象徴画の最高傑作の1つ、『ゲルニカ』を出展する。 
そしてその絵に感銘を受け、伝統芸能を重んじていた日本に 
前衛芸術を持ち帰った人物こそ、太陽の塔の制作者、 
象徴画の巨匠・岡本太郎、その人である。 


1970年にお目見えした太陽の塔は、戦後復興を遂げ、 
高度経済成長を終えた日本に、強烈なモラトリアムを残した。 
40年経ってもなお現存し、人類の進歩と調和の"象徴"として、 
日本人の古き良き時代を照らし続けている。 


――― 


岡本太郎が提唱した理念の中に、対極主義というものがある。 
写実主義=レアリスムの流れを組む定型的な象徴主義と、 
深層心理を描く不定型なシュールレアリスムの融合を意味し、 
前回に解説した"象徴"の両極性を捉えた理念を指す。 

『20世紀少年』は、そんな象徴主義の思想を背景に持つ。 
管理される社会に背を向け、自己表現に浸る新人類世代が、 
理想と現実の間にある"ヒーロー"になっていく話だ。 


新人類世代が子供の頃に夢見ていた"ヒーロー"は、 
なりたいと願いながらも、なれないと諦めている"象徴"だ。 
科学特捜隊の「イデ隊員」は、ウルトラマンが居れば 
われわれ科学特捜隊は必要ないような気がする、と、 
ウルトラマンに依存しきった無力感を吐露していた。 

『20世紀少年』に登場する人達も、理想の中にのみ存在する、 
"ヒーロー"の到来をひたすら待ち望みながらも、 
現実世界で自分達がその理想に到達する事は無いと、 
モラトリアム世代の心境を無力感で表現した。 

そんな鬱屈した対極主義の構造を打ち砕いたのが、 
世界を細菌テロの危機から救った、ともだちだ。 
ともだちは、理想を具体化する、まさに"ヒーロー"だった。 


主人公のケンヂも、幼少時代のモラトリアムを引き摺りながら、 
コンビニの店長として働く自分を嫌厭していた。 
小学生の頃は、友人と秘密基地で地球防衛軍ごっこをして遊び、 
"ヒーロー"が地球を救う「よげんの書」を書いた。 
ケンヂの理想は、世界をこの手で変える事だったのだろう。 

中学生になって、自分の力で世界を変えようと、 
放送室を乗っ取り、T.REXの『20th Century Boy』を流すのだが、 
変革は起きず、やっぱり"ヒーロー"にはなれなかった。 
現実は、ケンヂの理想を受け入れなかったのだ。 
いつしか自分が思い描く理想を、郷愁の中に閉じ込めて、 
ケンヂは現実に頭を下げて生きるようになった。 


――― 


けれど、そんな小さな郷愁まで奪われようとしていた。 
ともだちは、ケンヂとその友人の"象徴"であった 
地球防衛軍のシンボルマークを自分のものにして、 
ケンヂ達が書いた「よげんの書」を実行していった。 

ケンヂ達の理想は、大阪万博と太陽の塔に"象徴"された 
人類の進歩と調和を、自分達の世代が引き継ぐ事である。 
それを実行するのは、他人であってはならない。 

だが、立ちはだかる現実に打ちのめされている間に、 
ともだちが自分達の理想を具体化してしまった。 
"ヒーロー"になるのは自分達であるはずだったのに、 
ウルトラマンの「イデ隊員」ように、大人になってからも、 
他人が世界を救うのを見届ける役割になろうとしていた。 

ケンヂ達は、ともだちから"象徴"を取り戻す為に、 
今度こそ自分達の手で理想を掴む事を決意する。 
誰もが憧れる正義の"ヒーロー"にはなれないけれど、 
理想と現実の間に確かに存在する、郷愁の中に佇む 
自分達の矜持を守る、小さな"ヒーロー"になる為に。 


――― 


モラトリアム世代が抱いた個人至上の思想は、 
ケンヂ達と同じく、現実を越えたシュールレアリスムだろう。 
松本人志の『しんぼる』が国内で酷評を受けたように、 
そのまま描くだけでは、他人から理解される事は無い。 
岡本太郎が定義付けたように、現実であるレアリスムと融合し、 
両極性を包括する事で、ようやく共通認識が生まれる。 

『20世紀少年』は、岡本太郎の対極主義をそのまま形にした、 
象徴性の極めて高い作品だと言えよう。 
"ヒーロー"という郷愁の中のシュールレアリスムを、 
作品の"象徴"として現実に落とし込んだ、まさに傑作である。 

2011年で、岡本太郎の生誕から100周年目を迎えた。 
岡本太郎の残した20世紀は、確かに21世紀に引き継がれている。 


次回は、徹底したレアリスムを追求する事で 
理想を具体化した『ワンピース』の世界に触れてみよう。
 


ご清覧ありがとうございました。