どうも、道場主です。お久しぶりの更新となります。
今回は、『ポケットモンスターXY』および同シリーズの学術的考察となります。

更新をお休みしていた間、ドラクエ10→モンハン4→ポケモンXYと、
ゲーム三昧の日々を送っておりました。
漫画要素ゼロです。 もはやなに道場なんでしょうか。


『ドラクエ10』に関しては、当道場でも2つの考察記事をアップし、
大好評を頂いた為、別ブログを立ち上げてそこで続きを書いてます。

ロザリーのアストルティア考古学


既に何度か述べていますが、日本の漫画・アニメ・ゲームには、
子供向けとは思えない隠されたメッセージを持ったものがいくつも存在し、
そしてそれは『ポケモン』も例外ではありません。

では、具体的にどんなメッセージが込められていたのか、 
『XY』と『ブラック・ホワイト(BW)』を比較しながら見ていきましょう。 


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まず前作、『BW』についてです。

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『BW』に登場する学術的定義は2つあります。
ユークリッド幾何学において厳密な定義付けを果たした自然数の公理と、
フランスの技術者、ベノワ・B・マンデルブローのフラクタル理論です。

この作品のキーマンはもちろん、Nという青年に他なりません。
Nの本名は「ナチュラル・ハルモニア・グロピウス」。
「ナチュラル(Ntural)」というのは自然数(Natural Number)を指しています。


Nの目的は、世界を白黒はっきり割り切る事です。
数学の公式のように調律された、美しい世界を築く事。
人間は人間同士、ポケモンはポケモン同士で生きるべきだと言い、
その為に"数学の魔術師"と渾名されるほどの天才的頭脳をフル回転させ、
義父・ゲーチスに従いプラズマ団のトップに君臨します。

自然数の公理は、自然数(N)が持つ5つの基本的な性質の事であり、
Nはその名が表すとおり、この公理に従って計算式を導き出し、
人間とポケモンを別の集合体として捉えます。


人間の世界には人間が住む事を条件として計算式を立てた場合、

 人間の世界 = { A|A は人間 }
= { 主人公、チェレン、ベル、アララギ、…}


となります。これを真理集合と言います。

人間という自然数の集合 A の中には、ポケモン入ってません。
人間に虐げられたポケモンの悲痛な声が聞こえる青年にとっては、
モンスターボールは害悪そのものです。
ポケモンはポケモンの世界で暮らすべきだと主張します。
 
 ポケモンの世界 = { B|B はポケモン }
= { ピカチュウ、カイリュー、ヤドラン、ピジョン、…}


集合AとBは別々の性質を持っている為、
自然数の公理の上では、両者が交わる事は絶対に有り得ません
これがNが持つ思考回路の背景です。


白黒


ところが、世界にはどうしても割り切れない数字がある
一般的な自然科学の中では、微小な誤差は無視して計算します。
しかし、扇風機のCMなどで「1/fゆらぎ」という言葉を耳にされた方も多いと思いますが、
万物は等しく、微妙に揺れ動いているものであり、
数学で扱うサイン曲線のような、あんな綺麗な形をしていません。
これをカオス理論といい、それを体系化したものをフラクタルと呼びます。

Nにとって主人公の存在は真理集合の枠に収まらない計算外のカオスであり、
言わば蝶の羽ばたきのような、小さなものでした。
ところがこれを誤差として扱ったがゆえに、大きな竜巻となってしまいます。
天才の頭脳をもってしても割り切れなかったもの、
それが、多様な価値観が混ざり合い共存していく世界だった、
というのが、前作の大まかな背景となります。

「共存」というのは、ポケモンシリーズの共通テーマであり、
深いメッセージ性が添えられるようになったのは『ルビー・サファイア』の頃からです。
そして最新作『XY』でも、やはりこのテーマを扱っています。


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続いて今作、『XY』について見ていきましょう。

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『XY』の学術的定義は、ネオダーウィニズムが提唱する遺伝子進化論と、
アメリカの生物学者、リン・マーギュリス女史の共生進化論です。

同様のテーマを『仮面ライダー剣』が扱った事があります。
テロメア係数がどうのこうの言ってたり、バトルファイトが決着しなかったり、
遺伝子を扱った作品として見所があります。


さて今作では、AZというカロス地方の古き王がキーマンとして登場します。
「A(始まり)」と「Z(終わり)」を意味する名前でしょうかね。
生命が訪れる誕生と死を、伝説のポケモン・ゼルネアスとイベルタルに準え、
AZが愛した1匹のポケモンとの悲しい物語が進行していきます。

フレア団のボス・フラダリは、かつてAZが世界を終わらせる為に作った、
ポケモンの命を犠牲にする最終兵器を利用して、
強き者が全てを奪う、適者生存の世界の誕生を試みます。
その為にフレア団は電力を奪い、モンスターボール工場を奪い、
争いに利用されるポケモンを人々から奪います。


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ダーウィンは、経済学者・マルサスの人口論をヒントに、
限られた資源を奪い合う人間の経済活動を、生物学にも応用します。
そこから生まれたのが進化論であり、『種の起源』で説かれた自然選択説です。
この説はメガシンカを行う為に必要な1つしかないメガリングを、
主人公とライバルが奪い合うシーンに象徴されています。

わざわざフラダリに説明させるあたり、かなり重要なメッセージだと分かりますね。

かつての進化論は、メンデルの法則によって否定されましたが、
そこからメンデルの考え方を取り入れ、遺伝子進化論に発展しました。
優秀な遺伝子が優先的に残されていくという、今では当たり前の考え方です。
『XY』は、X遺伝子とY遺伝子から名付けられたと見られ、
今作がダーウィンの進化論を根っこにしている事が伺えます。


ところが、自然選択説を唱えるフラダリは、主人公とライバルの前に破れ、
Nがアララギ博士に舌戦を挑んだ時のように、
増えすぎた種に共生の道があるのではないかと説き伏されます。

生物が及ぼす相互作用によってお互いが生かされているという考え方は、
提唱者のラブロック博士によってガイア理論と呼ばれています。
このガイア理論を元に生み出されたのが、原生動物の共生・合体の連続によって
1つの生命が誕生したとする、共生進化論です。

進化(植物)

参照:生物史から、自然の摂理を読み解く | 植物はどうやって誕生したか?


共生進化は、大阪大学の四方哲也教授の実験によって証明されます。
繁殖力の大きな菌と普通の菌を同じ環境に置いた結果、
両者ともに何百世代も生き残り、一定の数を保ったのです。
つまりは適者生存の否定に他なりません。

フラダリの敗北は、進化の歴史から見て必定であったという事を、
隠されたメッセージとして添えている訳です。


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このように、『XY』は比較的低い対象年齢をターゲットとしながらも、
背景となるストーリーには明確な意思が込められており、
今作もやはり、シリーズを通しての「共存」というテーマを追っています。

ポケモンは"子供向け"、"お子様ゲー"では決してありません。
異なる価値観を認め合う事の重要性を説いた、
子供から大人まで楽しめるゲームである、という方が正確でしょう。


特に今作は、『BW』の分かりにくい数学の話とは異なり、
命の始まりと終わりという、直にハートに訴えかけるお話になっています。
それゆえ、ラストシーンは感動を抑えきれません。

久しくポケモンから離れている方にも、オススメだと思います。


ご清覧ありがとうございました。