漫画道場

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2012年07月

【短評】『YAWARA!』~今だから学びたい嘉納治五郎の「一本」の精神


猪熊滋悟郎

↑滋悟郎おじいちゃんの口癖。


今回からしばらくロンドンオリンピック特集です。
第1回目は「柔道」をテーマに扱います。
第2回「体操」はこちら。


しかし今回の柔道競技、判定で荒れていますね…。
海老沼匡選手の準々決勝で起きた、あの前代未聞の判定覆り。
あの3人の審判は謹慎処分になったそうですが、
対戦相手だった韓国の曺準好選手にも申し訳ない事をしたと思います。

ジュリー(審判委員)によるビデオ判定が導入され、判定が何度も覆った事で、
これまでいかに誤審が多かったかが、改めて証明されてしまいました。


漫画で柔道と言えば、手塚イズムの後継者・浦沢直樹先生の名作である
『YAWARA!』の名前が真っ先に挙がるでしょうが、
この作品では、実は誤審が描かれた事は1度もありません。
これは、漫画の世界で描かれる"柔道"と、現実世界で行われている"柔道"が、
全く別の競技である事を意味しています。

いったい何が違うのか?なぜ漫画には誤審が無いのか?
柔道の親と呼ばれる故・嘉納治五郎氏の教えを紐解きながら、
これを明らかにしていきたいと思います。


―――


柔道って何でしょうかというそもそも論から始めると、
講道館柔道を興した嘉納治五郎氏の精神を学ぶ事だそうです。
即ち、「一本を取る柔道」によって「精力善用」と「自他共栄」を図る事。
相手の背中を先に畳に付ける競技を行う事じゃないんですって。

『YAWARA!』には、嘉納氏の教えを体現したキャラが居ますよね。
その名も猪熊滋悟郎(じごろう)。どう見ても嘉納氏をモデルにしています。
で、その滋悟郎おじいちゃんですが、口癖のように突いて出る言葉が、
「一本取らずして何が柔道ぢゃ」ですね。

滋悟郎おじいちゃんは、何も自分の美学を押し付けているのではありません。
「一本を取る柔道」こそが正しい柔の道に通じているから、
孫である柔や、入門してきた弟子に対してそう言ってるだけでしょう。


では、なぜ「一本を取る柔道」が正しいのか。
当然ながらこれが根底にあるがゆえに、おじいちゃんの言葉がある訳です。

道を志した事も無い私が人に道を説くというのもおかしな話ですので、
猪熊柔のモデルとなった山口香さんの言葉を借りる事にしましょう。


引用:山口 香の「柔道を考える」より

技を練る時間
http://blog.goo.ne.jp/judojapan09/e/547ef2b4ed46614478dd5012f33b7132


 技術があって試合で勝つことができたとしても、さらに技を練り、
 高める時間がなければ技は錆び付いてしまい光を失っていく。
 相手に研究され、技を見切られるために試合自体も魅力のないものになっていく。
 お互いが手の内を知れば知るほど試合は緊張感を欠き、
 平凡なものとなる傾向にある。

 国際柔道連盟は効果ポイントをなくしたり、足取りを禁止したりと、
 柔道本来の持つ魅力を取り戻そうとの努力が見られる。
 しかし、一方でこんなに大会を増やし、ポイントで選手を縛ったことは、
 柔道で最も大事な技を練る時間を選手から奪い、
 本質であるべき切れる技をみる醍醐味を無くしてしまう危険がある。


山口さんは、柔道の本質が技の研鑽を積む事にあると書かれています。
そして別の記事では、こうもおっしゃっています。


自他共栄
http://blog.goo.ne.jp/judojapan09/e/855216dbd2784c401bbdf43bbf665857


 柔道のルールが柔道の魅力を失わせたという議論もあるが、私はそうは思わない。
 もちろん、要因の一部ではあるかもしれないが、
 取り組む人間の柔道に対する根本的な考え方を変えなければ
 どんなにルールを変えても変わらないと思う。


嘉納氏や滋悟郎おじいちゃんの言う「一本を取る柔道」とは、
即ち、技の研鑽を積み、誰の目にも明らかな完璧な一本を取るという事であり、
相手からポイントを奪う為に修得した中途半端な技をかけるのでは、
自分の為にも、自分に礼を尽くしてくれる相手の為にもならないという事でしょう。


―――


浦沢先生が『YAWARA!』で描いたテーマは、まさに
嘉納氏の教えにある「精力善用」と「自他共栄」にあります。

主人公の猪熊柔は、天賦の才を持ちながら、柔道にあまり熱心ではありません。
つまり、「精力善用」ではない状態にあるという事です。
ところが、決着がつかなかったジュディとの国際大会での再戦の約束や、
柔道を辞めたいと言う柔を支えた伊東富士子の助力があって、
柔は柔道に真剣に取り組むようになります。つまり、「自他共栄」です。

『YAWARA!』の世界では、誰1人としてポイントを取りに行く柔道をしません。
あのプライドの高い本阿弥さやかですら、柔からポイントリードをしている場面で、
逃げずに柔の組み手を真っ向から受けています。
(現実の柔道の場面なら、組み手を切ります。そういう指示が出ます。)


「一本を取る柔道」を目指さなければならないのは、
それが嘉納氏が掲げた理念を実践する為の唯一無二の答えだからで、
山口さんの言葉を借りれば、柔道の本質だからなのだと思います。

この作品では、なぜ誤審が描かれなかったか?
考えてみれば簡単で、誤審をしてしまうような微妙な技の決まり方が、
作中ではまるっきり無かったからなんですよね。
柔の出した技は全て綺麗に決まっており、疑いようの無い一本だったからです。

仮に山口さんの危惧が当たっているのだとしたら、
ポイントを奪い合う現在の柔道は、道の精神から外れていってるのかも知れません。


―――


海老沼選手は準決勝で敗れたものの、続く3位決定戦では、
誰の目にも明らかな美しい一本勝ちを収めました。

ご本人は「金メダルを獲れなかった事が悔しい」とおっしゃっていましたが、
あの時に繰り出された技は、メダルよりも価値のある、
本物の柔道精神の賜物であったと思います。
滋悟郎おじいちゃんもきっと、お褒めになるでしょうね。
 


ご清覧ありがとうございました。

【雑記】ロンドンオリンピック開幕~頑張れ長崎県選手!

ブログネタ
オリンピックで期待している競技・選手は? に参加中!
こんにちわ、道場主です。

ロンドンオリンピックが開幕となりましたね。
道場主は今年の頭から、もう、たまらんほどにそわそわしてます。

なんてったって今回は、長崎県出身の注目選手が多い!
長崎県民として、これを見逃す訳にはいきません。


そこで当道場では、8月まで五輪をテーマにした漫画を扱います。
でもまず最初に、長崎県出身の選手を紹介していきましょう。


―――


引用:県民だより ながさきライフ vol.27 2012年7月号
http://www.pref.nagasaki.jp/koho/plaza/tsushin/


※肖像権とかあると思いますので、問題あったらご連絡下さいませ。


内村航平


まずは何と言ってもこの方、体操の内村航平選手です。

長崎県では現在、2014年がんばらんば国体に向けて、
諫早市にある総合運動公園陸上競技場を改修してるんですが、
その競技場の道路を挟んだ向かい側、小高い丘の中腹に、
内村選手のご両親が運営される「スポーツクラブ内村」があります。

内村選手は高校進学と同時にご両親の反対を押し切って上京されてます。
しかし、技の安定性と競技を楽しむ心は、このスポーツクラブが原点なのでしょう。
子供の頃からご実家のトランポリンが大好きだったそうですよ。
体操でトランポリン?と思われるかも知れませんが、
内村選手は実際にトランポリンを使って空中感覚と着地を磨かれたそうです。

楽しい体操。『ガンバ!Fly high』の藤巻駿のような、
漫画の主人公そのものじゃありませんか。金メダルの最有力選手です。


―――


藤原新

この方も外せません、マラソンの藤原新選手。

藤原選手の母校は、これまた諫早市にある諫早高校(諫高)です。
市内では有数の進学校として有名な所なんですが、
諫高陸上部は女子の2001年・04年の2度の全国優勝をはじめ、
男子も藤原選手を輩出したりと、輝かしい実績を誇ってます。

諫高がどうして強いのか?それは、監督である松元利弘先生の、
選手の自主性を伸ばそうとされる指導方法にあると思います。


諫早高校陸上部の秘密 ~増田明美's Homepage
http://www.akemi-masuda.jp/es/es0103.html


諫高の生徒さんは、とても真面目です。
真面目な生徒が長崎県に集まると言う方が正確?

藤原選手はスタミナを鍛えるのではなく、スピードを鍛える、
独自の練習方法でロンドン五輪に挑もうとしていらっしゃいます。
それも、諫高で培われた自主性を重んじる指導の賜物ではないでしょうか。


―――


森岡紘一朗

諫高陸上部出身のもう1人は、競歩の森岡紘一朗選手。

長崎県には、国見高校の小嶺忠敏監督、清峰高校の吉田洸二監督など、
県外にも名を知られた優秀な指導者は多くいらっしゃいますが、
どの方にも共通して言えるのは、向上心を持って集まった優秀な生徒を、
我が子のように愛情を持って育成している事でしょう。

藤原選手や森岡選手も、ロンドン五輪の1ヶ月前に、
母校の松元監督を訪ねていらっしゃいます。

森岡選手は高校2年の時に競歩に転向され、翌年2003年の
長崎ゆめ総体・5000m競歩でトップでゴールしますが、
歩型違反により無念の失格に終わる結果に。

この時の悔しさを糧にして、これまで練習を積んできたと、
地元テレビ局のインタビューには応えられていらっしゃいます。
森岡選手の原点も、やはり長崎にあるのです。


―――


早川漣

続いて、アーチェリーの早川漣選手。

身長179cmと、スーパーモデルのような体格です。
お姉さんは北京五輪にも出場された早川浪選手で、
ロンドンでは姉妹で出場を目指されていらっしゃったそうです。
お姉さんは惜しくも代表入りを逃しましたが、
妹・漣選手は並々ならぬ思いを背負って、ロンドンの舞台に立ちます。

佐世保商業アーチェリー部は、全国優勝もしたほどの強さ。
今年7月に行われた世界学生選手権大会にも、
前年の高総体覇者である永峰沙織選手が出場されています。
この方も絶対、4年後のオリンピックに出てきそうだわ。

韓国生まれだからって馬鹿にする人は、豆腐の角にでも頭をぶつけて下さい。
JOCが選出した選手への意味の無い批判は、ひいては日本を馬鹿にする行為です。


―――


原田龍之介

選手紹介の最後は、セーリングの原田龍之介選手。

原田選手も、2003年の長崎ゆめ総体に出場された方です。
当時は海星高校のキャプテンとして、選手宣誓もされています。
海星高校と言えば野球部が有名な男子校ですが、
海の名前にふさわしく、ヨット競技でも実績を残した学校です。

お隣り佐賀県唐津市の吉田雄悟選手とペアを組んで、
今年のセーリング470級世界選手権の決勝シリーズに進出。
大変な実力をお持ちの方なのですが、五輪とは縁遠く、
これまで後一歩の所で悔し涙を飲んでこられました。

しかし今回は、松永・今村組との壮絶な国内代表権争いを制し、
見事、五輪出場となりました。素晴らしい!


―――


長崎県出身選手は、他にもまだまだ居ますよ。
サッカーU-23日本代表は、キャプテンの山村和也選手を筆頭に、
オーバーエイジ枠の吉田麻也徳永悠平の両選手も共に長崎県出身。
山村選手と徳永選手は、あの国見高校の卒業生です。

フッ…やはり五輪で勝つには長崎県の力が必要だという事だな…?


今回のロンドン五輪ではなぜ、長崎県出身者が多いのでしょうか。
ポイントがまさに県の競技選手の育成方針にあるのです。
例えばどうして国体をやるだけで競技場を改修するお金が出るのか、
こういった所が、他県の状況と異なるんですね。

長崎県は、九州地方の外れ(人の形に例えれば手の位置)にある為、
地理的環境は決して恵まれている訳ではありません。
スポーツ施設を探すなら都会に居た方がアクセス面で絶対に有利です。
しかし、長崎では1人ひとりに当てる育成費の金額が違います。
国体を見据えた政策だけでも、ジュニアスポーツで功績を挙げてきた
35競技100校を国体拠点校として、18競技延べ33校を強化校として指定し、
拠点校に80~210万円、強化校に20万~65万円の強化費を助成してます。

長崎県の競技力向上対策事業の総額は、5億8600万円です。
この金額は、九州最大の都市・福岡県より上です。
人口140万人の県が、500万人の県よりお金をかけているんですぜ!

周囲の県が財団法人の助成に頼る一方、長崎県は2003年のゆめ総体の頃から、
県や市が主導となって、ジュニア選手の育成に力を注いでいます。
緊縮財政が続く中で、スポーツ振興だけは10年間手を抜きませんでした。
その結果が、ロンドン五輪に出場する県民選手の数、という訳です。


どだいどだーい?えっへん!

私がやったんじゃないのに、妙に誇らしい気分になるのはなぜでしょうか。
これも五輪マジックなんでしょうかね。


昨日はなでしこジャパンが見事にカナダを2-1で降しました。
今日はサッカー男子五輪代表の試合があります。
さぁ、いよいよ長崎県民の出番ですよ。皆で長崎県を応援しましょう。

頑張れニッポン!頑張れ長崎県!
 


ご清覧ありがとうございました。

【ゲーム】ドラゴンズドグマ日記~覚者の剣(6) 前編


img1


前回:覚者の剣(5)  最初から:覚者の剣(1)


覚者神剣の伝承者・アドナイの下で働く派遣社員のリン。
ドラゴンのルーツを探るべく、"救済"の地下集会に潜入するも、
そこで待っていたのは、リンとバットの上司・ギレンだった…!


 中 世 紀 救 世 主 伝 説

 覚者の剣 第6話「ならば愛のために闘おう」~前編



―――


なぁマクシー。


> マクシミリアン
 ま、まくしー?

 …ゴホン、なんですか?


覚者サマが登城なさって、何時間経つ?


> マクシミリアン
 …そうですね、先ほど正午の鐘が鳴りましたから、
 2時間くらいだと思いますよ。


ちげーよ、そうじゃねぇよ!
なんで私らは2時間もこうして外で待たされてんだって話だよ!


> マクシミリアン
 Σ(゚ロ゚;ノ)ノ


> バット
 まぁそうカリカリすんなよ。生理か?


……。


JETアッパー


まぁ…茶番はいいとして、だ。
マクシーよぉ、あたいもお城に入れとくれよぉ。


> マクシミリアン
 駄目です。ポーンの民の皆さんには登城許可が出ておりません。


そこを何とかしとくれってばぁ。


> マクシミリアン
 駄目です。王の命令ですから。


チッ…しょうがないな.

ほら、これが見たいんだろ?
あたいのシルクランジェリーだよ…(〃∀〃)チラッ


まが男

> マクシミリアン
 …。


……。
上等だ…。

全員皆殺しにしてやる!


ピシャービリビリーッ!


うぎゃーーーっ!

くそおおっ、指輪めぇぇぇ!


> バット
 ぷぷ…ざまぁw
 私情は禁物って何回言やぁ分かんだよ。


> マクシミリアン
 おや、戻られたようですよ。


ギイィ…ドスーン…


> アドナイ
 すまない、待たせたな。


覚者サマーん!


> アドナイ
 いい子にしてたかい、ハァハァ(*´д`*)


はい! リン子、おりこうでした!


> バット
 …。

> マクシミリアン
 ……。

 まぁ、ともかく。
 アドナイ殿、謁見お疲れ様でした。


> バット
 ところで、領王ってのはどんなやつだったんだ?


> アドナイ
 うむ…。


―――


> フェステ
 さあて、いよいよ領王はじめのお歴々と田舎戦士の顔合わせ。
 何事も、第一印象が大事とて、道化のフェステの心遣い。


> アドナイ
 なにこの帽子…。


> フェステ
 いえいえ、お礼はご無用。さあさ、もう時間がない。
 どうぞこちらへ、戦士殿!ウフッフ~♪


> アドナイ
 え、ちょ…話を聞け…


バターン!


> ぷっ、はははは…。

> 何だあれは、王前であるというのに。

> ふっふっ…所詮は田舎者、か。


> シッ…静粛に、領王様がお話しになられるぞ。


ラオウ

> エドマン
 ふむ…余の王冠よりも立派ではないか。

> アドナイ
 (☆Д☆)・‥…━━━キュピーン!

 (な…何という威圧感…!)


> エドマン
 …この地を治めて数十年、かような危機の訪れを予見はしておった。
 だからこそ兵を募り、城塞を築き、有事に備えたのだ。

カツ… カツ… カツ…


> アドナイ
 (やだ、胸が…ドキドキしちゃう!)


> エドマン
 そして覚者よ…おぬしが現れ、ドラゴンもまた現れた。
 その意味、とくと考えるがよい。

> アドナイ
 (これが…「竜王」の異名を持つ王者の風格!)


> エドマン
 そなたに告げる。
 領土を預かる王の名において、領内での働きを許す。
 竜征の任務、しかと成してみよ!


> アドナイ
 はっ…承知仕る!


> エドマン
 政務官のオルダスに、余から勅命を出しておる。
 ふさわしき戦いの場を、おぬしに施そう。

 邪智暴虐たるドラゴンより、この地を守る為の手勢…、
 今は1人でも有り難い…。そなたも、存分に励むがよい。







…。

で、お顔を赤らめて帰ってきた訳ですか。


> アドナイ
 領王はかつての覚者神剣の伝承者…。
 その剣圧は、離れた相手にも届くという。

 俺の胸に残る竜爪の傷も、激しい高鳴りを覚えた。
 触れられずとも逝きそうになるとは…。


そろそろ突っ込むべきなのか。


> バット
 まぁとにかく、話を聞いてる分だと、
 オルダスっていうおっさんの所に行けばいいんだろ?

> アドナイ
 そうだな…、今日はいったん宿に戻って、
 明日の朝にまた登城しよう。


…ふーん。


―――


ケンシロウ

> アドナイ
 …。


(うん…あれは?覚者サマ?)

(こんな夜中に宿を出て、どこに…。)


> アドナイ
 ……。



ユリア

> …あら?
 ウフフ…。

 ごめんなさい、戦士様。だってあなた、
 とても険しいお顔立ちでいらっしゃるのに…これ…。


> アドナイ
 あ…あぁ、帽子…。


> アハハハ…ウフッ…。
 でも、厳めしいばかりの人達よりよっぽど良いと思います。
 勇敢さは、心に宿るもの。見た目ではございませんもの、ね。


> アドナイ
 そういうものか。


> 素敵な帽子の戦士様。
 そう言えば、わたくし、お名前を伺っておりませんでしたわ。


> アドナイ
 俺は覚者神剣のアドナイ。
 ドラゴンと戦う宿命を負った者だ(キリッ)


> 覚者…?ごめんなさい。
 わたくし、戦の事はよく分からなくて…。
 戦をする方は、皆、戦士というのだと思っていましたわ、戦士様。


> アドナイ
 貴女の名は何と…?


> エリノア
 申し遅れました、わたくし、エリノアと申します。
 先日、この地に嫁いで参りましたの。
 戦士様は、これから領王様の下で、ご活躍なさるのですね。


> アドナイ
 …!

 すると、貴女は領王のご令室…。


> エリノア
 素敵な帽子は、覚者という者の印であったりするのですね。
 それを、わたくし、可愛いなどと思ってしまって。
 ごめんなさい、戦士様。


> アドナイ
 これは道化師が勝手によこしたものだ。
 俺には必要ない。


> エリノア
 まあ、帽子を下さるのですか?
 有り難うございます、覚者様。大事に致しますね。
 ウフフフ…。


> アドナイ
 もう行かねば…。
 従者を城の外で待たせているのだ。


> エリノア
 戦士様のご無事をお祈りしておりますわ。
 また、次の出会いに…。



ケンシロウ

> アドナイ
 ……。


(覚者サマ?お城に何の用が…?)



> マーベル
 あのう、覚者様…、お嬢様…エリノア様がですね、
 覚者様とゆっくりお話ししたいと申してましてねぇ。


> アドナイ
 何っ、あの麗人が?


> マーベル
 いえいえ、ねえ、珍しいのですよ。
 あの控えめなお嬢様が、こんな頼み事を、ねえ。
 私もお嬢様に仕えて長いですが、
 初めての事でございます事よ、本当に。

 それで、まあ、ねえ。
 お嬢様も、今はほら、奥方様な訳でございますから、ねえ。
 お話をされるだけ、とは言っても、
 城の者に見つかったら、いろいろと、ねえ。

 ですから、覚者様、くれぐれも見つからぬよう、
 夜にでも、お嬢様のお部屋にいらしていただければ、と。




> アドナイ
 エリノア…殿。


(あ、お城に入ってった!)


城内は、夜間は特別警戒中なはず…。
ま…まずい!


バットー!
起きろーバットーー!!


> バット
 んあ…母ちゃんもう勘弁…。


誰が母ちゃんだ、大変なんだよ!
覚者サマが1人でお城に潜り込んじゃった!


> バット
 …ん、…な…
 …何だって!


どうしたんだろう、私達を置いていくなんて…。


> バット
 う~ん…、謁見の時に何かあったんじゃないのか?

 とりあえず、さ、俺達は城内に入れてもらえないんだから、
 アドナイ様が戻られるのを待つしかないぜ?な?


うん…そうだね…。


―――


> マクシミリアン
 これは皆さん、大変な事になりましたよ。

 昨晩、アドナイ殿が王后様の寝室に侵入した罪で、
 牢獄に捕らえられたとの事です。


(゚д゚lll)エーッ!

なにそれ!何で覚者サマがそんなとこに!?


> マクシミリアン
 なんでも、アドナイ殿は王后様に庭園で会われた際に、
 ストーカー行為を働いたそうですよ。


> バット
 ああ…あいつならやりかねんな…。

> マクシミリアン
 まったく、残念な事です…。


何言ってんの!!


> バット
 …!
 ど、どうしたんだよ急に…?


覚者サマがそんな事するはずがないわ…!


> バット
 いやいや、あいつの変態ぶりはお前も分かっているだろ?
 こりゃもう弁護のしようがないぜ?


覚者サマはねぇ、覚者サマはねぇ…


ロ リ コ ン な の よ !!


> バット
 ハッ!(`ロ´;)

 た…確かにリンの言う通りだ…!
 マクシミリアンの旦那…。


> マクシミリアン
 …どちらにしろ、危ない方なんですね。


とにかく、覚者サマが釈放されるのを待ちましょう…。
だいじょぶ、絶対あの方は手を出されてない。


>バット
 …いやにあいつの肩を持つんだな。


> マクシミリアン
 むっ…開門です。
 覚者殿が戻られたようですよ。


ギイィ…ドスーン…


ケンシロウ


か…覚者サマーーーん!


> アドナイ
 リンたん…待っていてくれたのか…。


当然じゃないですか!
私はあなたの専属の従者ですよ!


> アドナイ
 そう…だったな。


> バット
 よう、覚者様よ。事情を聞かせてくれねぇかな。
 リンは昨日の夜からずっと城門の前で待ってたんだぜ?


> アドナイ
 うむ…あまり大きな声では言いにくいのだが、

 …密会の現場を目撃されてしまったのだ。


…え。


> アドナイ
 領王との謁見後、王后の使用人から呼びとめられてな。
 夜に王后のもとを訪ねてきてくれとの事だった…。

 王后とは庭園で少し話をしたのだが、麗しき姫君であった。


> バット
 何だ、あんたやっぱりエリノア様とデキてたのか。


嘘…でしょ…?


> アドナイ
 …は?

 何を言ってるんだ、お前は?


> バット
 …は?


…え?


> アドナイ
 確かに俺は王后の部屋を訪ねていったのだが、
 そこにおいでであったのは…


 …領王だったのだ!



(;'=');'=') は?



> アドナイ
 領王は謁見の時、一目で俺を見初められたとの仰せ…。
 だが、領王はシャイなお方であらせられた。
 そこでエリノア殿の名を使って、俺を呼び出されたそうなのだ。


え…て事は…?


> アドナイ
 ああ、熱い夜だったよ…。


くそみそテクニック


領王サマもそっちか!


> アドナイ
 しかし、現場を王后に目撃されてしまい、
 こってりしぼられて牢獄に押し込まれていた訳だ。
 まぁ、領王の寛大な恩赦に救われたがな。


一生出てこなくてよかったかもね。


> アドナイ
 リンたん、怒らないでくれ。
 俺はリンたんの…


> ねぇ…あなた。


> アドナイ
 …?

 むぅ…?


キュアピース

> あなた、覚者様でしょ?
 お父様を助けてよ!


> アドナイ
 ━━(  ゚Д゚)━━!!



ちょ…何よあんた、話の途中なんだけど?


> アドナイ
 少女よ、名を聞こう…。


> シモーヌ
 あたし?…シモーヌよ。
 それより、お父様が大変なの!

> アドナイ
 落ち着いて話すんだ、父君がどうされたのだ。


> シモーヌ
 お父様が…領都兵に逮捕されちゃったの!!


―――


ハート様

> フォーニバル
 いきなり兵士どもが押し掛けて、この有様だ。
 なんで私が、こんな目に合わねばならん!
 まったく理不尽極まりないわい!


…どうしてこんな醜男から、あんな可愛い子が?


> アドナイ
 なるほど…な。
 オルダス殿に嫌疑をかけられているのか。

 しかし、賄賂・詐欺・監禁・機密漏洩・救済への加担、
 どれを取っても救いようがない。


> フォーニバル
 …おい、あんた。…査問が終わるまでは、まだ少々時間がある。
 なんとか無罪放免となるよう、手回してくれんか。


> アドナイ
 事情は分かった。


> フォーニバル
 乗り切ったあかつきには、報酬を与えるぞ。
 どうだ、悪い話じゃなかろう?
 こんな茶番、さっさと終わらせて元の生活に戻りたいのだ…。


> アドナイ
 フッ…貴様の蒔いた種だろう。大人しく裁きを待つ事だな。

> フォーニバル
 な…おい、待て!


ふふっ…じゃーね、おじさーんノシ


> シモーヌ
 ねえ…お父様はどうなるの?何とかならないの!?


> アドナイ
 …!


> シモーヌ
 …あたし、お父様を助けたいわ。
 お父様は悪い事にも手を出していたかも知れないけど…
 あたしにとっては…


> アドナイ
 シモーヌたん…


たん?


> シモーヌ
 お願い覚者様、お父様を助けて!


> アドナイ
 …喜んで力を貸そう(〃∀〃)


…え。

工工エエエエエェェ(´д`)ェェエエエエエ工工


何言ってるんですか覚者サマ!
こんな親子に協力してやる事なんてないですよ!


> バット
 覚者様よぅ…あんた、まさか。

> アドナイ
 バット…男には、やらねばならぬ時がある…。

 それが…「今」なのだ!


くっそ、どうせこの子が幼女だからだろうが!


> アドナイ
 (*∩ω∩)テヘッ

 …よし、では早速取りかかろうか。


ハァ…こうなったら乗りかかった船よ。
まずは無罪放免してもらう為の嘆願書を集めましょう。


> アドナイ
 さすがはリンたん。
 白昼に輝く星のごとき冴えようだ。

 では、シモーヌたんも一筆書いてくれるかな?


> シモーヌ
 …嘆願書?

 ええ、そんなものならいくらでも書くわ。
 お父様を助けられるなら、こんなの安いものよ。


―――


> ジェフリー
 なんと…フォーニバル氏が査問に?
 …それは遺憾ですね。彼は確かに、素行に問題はありました。
 人から妬まれ、疎まれる事もあったでしょう。
 しかし、他者を貶めて悦に入るような、邪悪な魂の持ち主ではありません。

> アドナイ
 すまない、司祭殿には迷惑をかける。

> ジェフリー
 よろしい…私が、嘆願書に署名しましょう。
 彼の無罪を、私は信じます。







> フェデル
 フォーニバルが査問にかけられるそうだな。
 ふむ…奴がここで断罪されるような事があれば、色々と面倒、か。

 私は氏と個人的な付き合いがあり、無実を信じたい。
 覚者殿よ…貴殿に嘆願書を預けよう。
 無罪を主張する証拠に役立ててくれたまえ。

> アドナイ
 いいだろう、確かに預かった。

> フェデル
 奴にはもう少し、長生きしてもらわねばな…。







…よし、次は証文ね。
フォーニバルさんの善行を示す物的証拠を集めましょう。


> アドナイ
 シモーヌたん、貴女の父君が何か、
 人から敬われるような功績を残した事が分かるものは無いか?

> シモーヌ
 お隣りの国の官僚の方から賜った感謝状があるわ。
 こんなもので役に立つかしら。

> アドナイ
 よし、これでいいだろう。


> バット
 …あのさ。

> アドナイ
 どうした、バット?


バット

> バット
 フォーニバルのおっさんは国から疑いをかけられるほど、
 色々とやばい橋を渡ってきたんだろ?

 …紙切れだけ集めても、悪い印象を覆せるとは思えないぜ。


おお…バットのくせに筋の通った意見を出しやがるな。
あんた、部長が言ってた通り、頭は良いのね。


> バット
 このやろう…。
 俺も一応、お前の上司なんだけどな。


現場では結果が重視されるのよ。
フォーニバルさんの嫌疑を晴らす事に、上も下も無い(キリッ


> アドナイ
 では、どうする…?
 潔白を証明してくれる証人でも探すか。


> バット
 俺に任せときなって。
 おっさんが渡った橋を辿れば、必ず世話になった奴が見つかるだろ?

 マクシミリアンの旦那にそこんとこを尋ねて、
 おっさんと取引してたルートを当たってみるよ。


な…なんだこの名探偵ぶり。







領都北、風断ち峠にて―


> ダリオ
 伝令から聞きました。
 フォーニバル氏が、査問にかけられるそうですね。

> バット
 そうなんだよ、前線拠点を任されてるあんたとしては困るだろ?

> ダリオ
 困りましたね…。
 彼には武器調達において色々と便宜を図ってもらっておりますから。
 今、彼の活動が制限されたり、万が一、有罪となったりすれば…。


> アドナイ
 俺からもお願いしたい…。
 フォーニバル殿には、幼い息女も居るのだ。


むしろそっちがメインだろうけどね。


> ダリオ
 ふむ…ここは拠点防衛の兵士の意見として、
 我々も彼の無実を支持するとしましょう。


> バット
 よっしゃ!恩に着るぜ!


> ダリオ
 残念ながら私はここを離れられませんが…
 私の部下を、代わりにお連れ下さい。
 フォーニバル氏と、ひいては私どもを助けるつもりで…
 宜しく頼みましたよ。

 あとは、部下に直接お話し下さい。

> カストル
 カストルと申します。ダリオ兵士長から、全て伺っております。
 領都までの護衛、宜しくお願い致します。


> アドナイ
 よし、これで証拠は集まった。
 領都に戻って、オルダス殿に掛け合ってみよう。



 第6話 後編に続く~


―――


なんと…字数オーバーしてしまいました。
という訳で続きは次回!



ご清覧ありがとうございました。

【短評】『崖の上のポニョ』~ディストピア文学と奪われた主体性


崖の上のポニョ

↑ポニョにとってのユートピアは、陸の上にあった。


ジブリ映画考察の第3回は『崖の上のポニョ』です。

【ジブリ考察シリーズ】
 第1回 『千と千尋の神隠し』
 第2回 『火垂るの墓』
 第4回 『ハウルの動く城』


このアニメは、『もののけ姫』から変化を続けてきた、
宮崎駿監督作品の集大成と言えます。

生と死の側面から見た謎の多いストーリーの考察は、
他のサイトに沢山ありますので、そちらを参照して頂くとして、
当道場では、宮崎監督自身にスポットを当てて、
この作品が生み落とされるに至った理由を考えていきます。


『崖の上のポニョ』は、宮崎作品の中でも異色の存在で、
これまでの作品と決定的に異なる点があります。

それは、ストーリーから主体性が欠如している事。

過去の主人公は、ナウシカにしろ、アシタカにしろ、
ストーリーの中心に位置し、主体性を持って世界を動かしていました。
こうしたい、こうありたいという理想や願望があり、
現実の世界をそれに近付ける明確な目的があったのです。

ところが『ポニョ』の場合、アプローチの仕方が違います。
ストーリーの主体性を握るのは、フジモトやリサ、グランマンマーレなど、
事情を知っている、もしくは知らされた周りの大人達で、
宗介とポニョは、その大人達の都合によって動かされています。
まだ5歳の子供達、生きる目的なんて背負っていません。

「主体性が感じられない」という批判を散見しますが、
宮崎監督は初期の頃から、キャラの主体性を重視されてきた方。
それもまた狙って作られていると考えるのが妥当です。

ではなぜその監督が、『ポニョ』から主体性を奪ったのでしょうか。


―――


ストーリーを簡単におさらいしてみましょう。
まず、ポニョの起こした危機について触れてみます。

ポニョはなぜ宗介の住む町を水没させたのか?

これは、月の影響が関係しています。
高校の教科書などに書かれてある通り、潮の満ち干きは、
月の重力によって起こされ、月が地球に近づいてくるというのは、
その影響をより強く受けるようになる事を示しています。

ではなぜ月が近付いてきたのかと言うと、 ポニョの魔法で
地球が4億年前のデボン紀の姿に戻ろうとしてたのだと思います。
かつての月は、今よりも地球に近かったそうで、
地球に及ぼす潮汐力も大昔の方がより強く、
この為、海水準もずっと高かったと言われてます。

デボン紀は特に海の生き物が繁栄した時代であり、
フジモトら海の眷属は、魔法の力を凝縮させた生命の水を使って、
4億年前の地球の姿を蘇らせようとしていたと推察されるのです。

それが、ポニョが起こしたミステイクによって、
月が地球に近付きすぎてしまい、衝突しそうになっていました。


この時の距離をきちんと計算された方もいらっしゃいます。


引用:第93回 「崖の上のポニョ」の謎 (~康平PAGE様)
http://homepage3.nifty.com/kouhei1016page/Math/Math093.HTM


計算によると、通常38万km → 10万kmまで接近していたとの事。
「あれが見えないんですか」とフジモトが指差した月は
明らかに大きく、衝突間近だった事が分かります。


引用:地球と月の距離 (~月世界からの報告様)
http://www12.plala.or.jp/m-light/Distance.htm


月と地球の距離は年間で約3cmずつ離れていってるそうなので、
デボン紀における月までの距離は、

3cm × 4億年前 = 12億cm(1万2千km)

ほど近かったと推定されます。つまり、

38万 - 1.2万 = 36.8万km

これが、4億年前の地球の姿です。
10万kmまで接近した事がいかに危険だったか分かると思います。


―――


作品のテーマを読み解く上でもう1つ重要なのが、
「月」が"女性"の、「海」が"愛"のメタファー(隠喩)である点です。

神話に出てくるアルテミスやセレーネなど、女性はよく「月」に例えられます。
月経周期が月の朔望周期(29.5日)と重なっているからでしょうか。
そして、母親となった女性が捧げる愛情は「海」に例えられます。
母の愛は海より深し、月の接近による潮汐の変動は、
そのまま地球が「母親の愛」で満たされる事を象徴していると言えます。

『崖の上のポニョ』には、3人の母親の存在があります。
リサ、グランマンマーレ、船に乗ってたお母さん。
全ての命は母親から生まれている、というメッセージを、
わざわざ3人も使って説明している事から、
宮崎監督はこの作品の重要なテーマとして、
「母親の愛」を組み込んでいると推察する事が出来るでしょう。


『もののけ姫』、『千と千尋の神隠し』、『ハウルの動く城』の3作品は、
いずれも主人公過酷な運命を最初に背負わせる事で、
作品のテーマを定義付けて主体的に物語を動かしてきました。
宗介とポニョにはその定義付けを、はっきりと持たせてはいないのですが、
やはりそれは2人の母親が関係しているのです。

大人の視点から見れば、ポニョは災厄の使者です。
トキさんも「人面魚が出ると津波が来る」と恐れてました。
ポニョだって本当は、「わるいまほうつかい」に違いないのです。
だけど、町に災厄を齎した事さえ気付いていません。
純粋であるゆえに、ただ宗介に会いたい一心で、
生命の水のバルブを開き、海の力を解放してしまっています。

宗介にしても、「ポニョ、そーすけ、すきー」という言葉に、
「ぼくもだよ」とただ答えているだけです。
その言葉にはまだ"愛"と呼ぶほどの覚悟はありません。
2人はまだ5歳、自分達の進むべきを主体的に選ぶ事の出来ない、
まだ母親の庇護下にある子供だからです。

グランマンマーレは宗介とポニョに、覚悟を問います。
これにはフジモトも大人の意見として「まだ早すぎる」と反対してますが、
グランママはリサと相談して2人を大人にします。


最後に宗介とポニョが、大人の誓い=キスをした事で、
魔法の力が解け、月の衝突は回避されます。

即ち、接近した月を元の38万kmの距離に戻すというのは、
過剰な"愛"の庇護下に置かれ主体性を失った子供達が、
母親から離れ、自らの足で自立を果たすという事に他なりません。
分かり難いながらも、この作品のテーマはきちんと帰結しているのです。


宗介とポニョから、世界のあるべき姿を取り戻すという目的を奪ったのは、
宮崎監督の狙いが、作品に隠されたメッセージではなく、
表面的に展開される純粋無垢な子供達の心の交流を伝える事を
主眼に置いていた為であると考えられます。

ところが、これらの背景を正確に理解しなければ、
子供達が手を繋いで、てくてく歩いてくだけで目的に辿り着く、
実に主体性の無いストーリーのように思えてしまいます。

どうしてこんな作品にする必要があったのか、
宮崎監督自身の背景も踏まえて、さらに突っ込んで考えてみましょう。
道場主の考察はここからが本番ですよ。


―――


さて、過去作品の主人公は、明確な目的を持っていたと述べましたが、
それはつまり、自らが望まんとする"ユートピア(理想郷)"に、
現実世界を導いていくストーリーであったと思います。

皆が仲良く楽しく幸せに、ハッピーエンドで終わる。
『紅の豚』までの作品は特にその傾向が顕れていますが、
これは哲学者のプラトンやトマス・モアが夢見た、空想的社会主義です。

ユートピア思想は、現実世界ではとっくに崩壊しています。
理想の社会を目指した社会主義国家がどうなったか、
今や説明するまでもありませんね。


『崖の上のポニョ』でも、ユートピアを作ろうとしていた人物が居ました。
それがポニョのお父さんである、フジモトです。
フジモトが目指す理想は、まさに海の中にありました。
作中に出てくる海底には、ゴミが堆積してごちゃごちゃになってます。
ポニョもゴミ山の中のジャム瓶に頭を突っ込んで死にかけていましたね。
海の眷属にとってそれは理想の海の姿ではありません。

宮崎監督の作品は共通して、崩壊した自然の様子を描いています。
そしてその中に人間の生死観も組み込まれている。
人間は自然によって生かされており、敬意や畏怖の象徴として、
自然と共存する姿を理想的に捉えたのが、宮崎監督の自然観です。
言うなれば自然は、監督のユートピア文学なのです。
フジモトはそのメッセージの発信者であり、象徴でもあります。

ところがこの作品は、そうしたメッセージをあえて受け取らないように、
フジモトの背景を説明せず、分かり難く描いてます。


デボン期の海の現出は、フジモトにとってはユートピアでした。
しかしポニョは、フジモトを否定するように陸の上に憧憬を抱き、
人間の姿になってまで、宗介と暮らす事を選んでいますよね。
フジモトから見ればそれは、"ディストピア(反理想郷)"です。
そしてフジモトを象徴化した宮崎監督にとっても、
これまでの主体性あるストーリーを否定するこの作品は、
過去作品に対するディストピア文学として定義されるのです。

フジモトが宮崎監督の思想を象徴する存在であるなら、
それを意図的に隠してまで伝えようとしたポニョの存在は、
はたしてどのようなものだったのでしょうか。
これを読み解けば、宮崎監督の真のメッセージが見えてくるはずです。


―――


ポニョはフジモトを「わるいまほうつかい」だと言い、
何をするにしても話を聞かず、とことん逆らい続けます。

しかし実はその陰で、フジモトはポニョの仕出かしたミステイクを
グランマンマーレと協力して挽回し、帳消しにして、
最後にはポニョの意志を尊重し、人間にしています。

フジモトを宮崎監督に置き換えてみましょう。


宮崎監督は常に啓発的なメッセージを発し続けています。
しかし、人間はその忠告を聞かず、自分勝手に振る舞った挙句、
地球環境を危機的な状況に追い込んでいます。

それを、グランママ=月と協力し、愛情で包み込んで、
大人として優しく見守っていく選択をしている。

あれほど空想的社会としての結末にこだわってきた宮崎監督が、
並々ならぬご自身の強い意志を隠されてまで、
ディストピア文学としてのストーリーを書き起こすというのは、
我が子であるポニョを手放したフジモトと同じくらいの、
大変に大きな、苦渋の決断であったと思います。


つまり、ポニョを象徴にして描かれた5歳児とは、
宮崎監督から見た子供の存在="若者"を意味していたのではないでしょうか。
もしこういった解釈が正しいのであれば、
宮崎監督の真のメッセージは、やはりポニョにあるのです。

「君達のしている事は間違いだけれども、君達の意志を尊重する」、と。


これが、ストーリーから主体性を奪った理由でしょう。

フジモトやグランマンマーレに隠された背景を、
私達1人ひとりが自発的に考え、真摯に向き合う事。

宮崎監督の狙いは正しかったと思います。
多くの人の頭を悩ませ、考えさせる事に成功しているのですから。


―――


『崖の上のポニョ』は、現在ではTV放映を自粛していると言われています。
津波の描写が東日本大震災を想起させるからだそうです。

宮崎監督の強い想いが込められた作品に蓋をしてしまうのは、
私見ながら、監督のメッセージが届かなくなるという事ですから、
無益な若者の1人として、とても残念に思います。

監督、引退されるのはまだ早いですよ。


※ この考察を書いて40日後、2年ぶり2度目となる地上波放送がありました。
  何とノーカット放送。日本テレビも政治的判断を迫られたと思いますが、
  当道場はこの判断を全面的に支持します。
 



ご清覧ありがとうございました。

【短評】『火垂るの墓』~節子の死の真因を探る


火垂るの墓

↑幸せそうに笑う幼い命が、なぜ失われたのか。



『となりのトトロ』面白かったですね。
でもジブリ映画考察の第2回目は、『トトロ』じゃないんです。
これと同時上映された『火垂るの墓』の考察なんです。

【ジブリ考察シリーズ】
 第1回 『千と千尋の神隠し』
 第3回 『崖の上のポニョ』
 第4回 『ハウルの動く城』


『トトロ』に関しては、本当は悲しいお話だったと解説した
優れた記事が他にいくつも見受けられますので(ガセらしいですが)、
当道場が後追いで同じ事を指摘するのも差し出がましくあります。
ですが、『火垂るの墓』のある疑問点について、
詳細に触れている記事を見つける事が出来なかったので、
いっちょ、取り上げてみようかと思った次第です。

その疑問とは、節子の死因です。

感想としてよく言われるのが、幼い妹・節子が死んだのは
兄・清太のエゴイズムのせいであるという事ですが、
私は初見からこの説を否定しています。
節子はなぜ死ななければならなかったのか?
原作者・野坂昭如氏の文学的背景も踏まえて解説していきましょう。

なお、今回はかなり残酷なテーマを扱います。
苦手な方は、回れ右でお願いします。


―――


節子は栄養失調で亡くなったとされています。
これは、原作でそう明記されているからに他なりません。


> 白い骨は清太の妹、節子、八月二十二日西宮満池谷
 横穴防空壕の中で死に、死病の名は急性腸炎とされたが、
 実は四歳にして足腰立たぬまま、眠るように
 みまかったので、兄と同じ栄養失調症による衰弱死。



文章だけをそのまま受け取ると、やはり清太のエゴイズムが
節子を死に追いやったように捉えかねないのですが、
ストーリーを注意深く見てみると、おかしな点が1つだけあります。


詳細を思い出してみましょう。節子は亡くなる前に、
「あせも」が出来て、「おなかびちびち」になっていますよね。
下痢症はおそらく栄養失調によって引き起こされ、
皮膚症も免疫力が落ちた事で複合的に発症したと伺い知れます。

では、この症状が最初に現れたのは、いつだったか?

実はおばさんの家に居る頃に既に発症してるんです。
清太はお風呂で節子の背中に「あせも」を見つけ、
療養と称し、海に行って患部を塩水に浸けさせている。

つまり節子は、清太と2人でおばさんの家を出る前から
身体に何らかの異常をきたしていたのであり、
清太の行動によらずとも、節子は遅かれ早かれ、
同様の症状で亡くなっていた可能性があるという事です。


では、節子はいつ、病にかかったというのか?

答えは冒頭。

お母さんが重体となった空襲の後に降った雨が、
節子の左目の中に入った時―


このシーンがすごく引っかかってました。
節子がおばさんの家から出て行った為に栄養失調になったのなら、
なぜこんな描写を入れる必要があったのかと。

原作の記述を確認してみました。


> ようやく爆音遠ざかり、やがて五分ほど夕立のように雨が降って、
 その黒い染みを見ると、「ああこれが空襲の後で降るいうやつか。」(中略)

 堤防下りかけると、またも爆発音がする、まだ瓦礫の中の火は治まらず
 よほど広い道でないと熱気にあおられて歩けず、「もうちょっとここにおろ。」
 節子に言うと、声かけられるのを待っていたように「兄ちゃんおしっこ。」
 よっしゃと降ろし、草むらに向けて節子の足を抱える、
 思いがけず勢いよく小水ほとばしり、手ぬぐいでふき、

 「もう頭巾取ってええわ。」見るとすすけた顔だから、
 水筒の水で「こっちはきれいやからな。」手ぬぐいの一方の端湿らせて清める、
 「眼エ痛いねん。」煙のせいか赤く充血していて、
 「学校へ行ったら洗うてくれるよ。」(中略)

 「清太さん、お母さんに会いはった?」向かいの家の娘に声かけられ、
 清太は学校の校庭で衛生兵に節子の眼を洗ってもらい、
 一度ではまだ痛がるのでまた行列の尻に並んだ
ところで「ううん。」



やはり、空襲の後の降雨と、目に何らかの異物が入ったシーンがあります。
しかも痛がってる事を2回も強調して書いていますね。

アニメでは、財布からおはじきを取り出し地面に並べた時、
上から雨が降ってきて、それを見上げた節子の左目に雨粒が入ってます。


火垂るの墓


それからしばらくして「目が痛い」と清太に訴えた時も、
こすっていたのはやはり、左目の方でした。


火垂るの墓


―――


野坂昭如という作家がどういった人物であったのか。
これがはっきりすれば、このシーンの意味も分かるでしょう。
節子の死因を探る上ではっきりさせておきたいのは、
野坂氏が無駄な描写を入れたがる作家であったかどうか?

これは即答出来ます。答えはNOです。
理由は、野坂氏は無駄な文節をカットして文章を紡ぐスタイルを
作家デビューした当時からずっと貫いてきたからです。
直木賞の選考委員の方からも、このような評価を受けています。

第58回直木賞~最高評価を付けた先生方の選評

海音寺潮五郎
 大坂ことばの長所を利用しての冗舌は、縦横無尽のようでいながら、
 無駄なおしゃべりは少しもない。十分な計算がある。見事というほかはない。
 描写に少しもいやしさがなく、突飛な効果が笑いをさそう。感心した。

松本清張
 前回からの推薦者としては同慶に堪えない。
 私の好みとしては『アメリカひじき』よりも『火垂るの墓』をとりたい。
 だが、野坂氏独特の粘こい、しかも無駄のない饒舌体の文章
 現在を捉えるときに最も特徴を発揮するように思う。


野坂氏は、確固としたスタイルを築き上げると、
それを絶対に崩さないポリシーの持ち主でもありました。

選考委員の両先生が共に挙げられている「饒舌(冗舌)」スタイルは、
野坂氏がまだデビュー間も無い頃から続けているもので、
句点で区切らず、読点で文章を繋いでいく手法を指しています。
短所としては慣れていないと読みにくい一方で、
長所として、余計な文節を削ぎ落とす事が出来ます。

マルチタレントであった野坂氏は、もともと放送作家で作詞家でした。
大学ではシャンソン歌手を志していて、文芸作家となるのは
コラムニストとして成功を収めた後になるのですが、
つまり、純文学を志して文章表現を磨いた作家とは異なり、
手探りの状態で句点を使わないスタイルを生み出しているのです。
それだけに、自分の文章には相当の自信があったと思います。

野坂氏は、トレードマークとしていた黒いサングラスのように、
作家として研鑽を積んだ後も、無駄を省いた文章スタイルを続けています。
かっこいい自分を絶対に曲げない人でありました。
ですので、そのかっこいい文章にミソを付けるような、
蛇足な事をするかと言ったら、まずそんな事はないだろうと思います。


そもそも小説に無駄な描写はありません。
2流の作家ならともかく、直木賞作家である野坂氏が、
意味も無くこんなシーンをわざわざ用意するとは思えません。

やはり、ストーリーの主幹に関わる何らかの意味があって、
目に異物が入るシーンを書いた
、と考えるのが妥当なのです。


―――


しかし、まだ根本的な疑問があります。
目に雨粒が入っただけで、皮膚症や下痢症を引き起こすのか?

焼夷弾の後に降る雨は、原子爆弾による「黒い雨」とは異なり、
放射能の内部被曝の疑いは考えられません。
空襲後の雨、もしくは煤に、そのような毒性は無かったと考えられます。


> 六月五日神戸はB二九、三百五十機の編隊による空襲を受け、
 葺合、生田、灘、須磨および東神戸五か町村ことごとく焼き払われ、
 中学三年の清太は勤労動員で神戸製鋼所へ通っていた



原作の記述より、数度に渡った神戸大空襲のうち、
6月5日の空襲に使用された爆弾の種類を調べてみました。


引用:神戸市文書館 米軍資料にみる神戸大空襲
http://www.city.kobe.lg.jp/information/institution/institution/document/kushu/kushu70.html


月日 機種 爆撃機
数(機)
攻撃時刻 弾種等 投下爆弾
トン数
攻撃高度
(メートル)
第一目標 作戦の位置づけ
2月4日(日)

B29

69

13:50~
14:24

焼夷弾
破砕弾

172.8

7470~
8230

神戸市街地試行的大都市市街地への焼夷弾攻撃
3月17日(土)

B29

306

2:29~
4:52

焼夷弾
破砕弾

2328.1

1520~
2900

神戸市街地大都市市街地への焼夷弾攻撃
5月11日(金)

B29

92

9:53~
10:03

爆弾

459.5

4790~
6100

川西航空機深江製作所主要工業目標に対する昼間爆弾攻撃
6月5日(火)

B29

474

7:22~
8:47

焼夷弾
破砕弾

3079.1

4160~
5730

神戸市街地大都市市街地への焼夷弾攻撃
8月6日(月)*

B29

250*

0:25~*
2:01

焼夷弾
破砕弾
爆弾

2003.94

3840~*
48804

西宮ー御影市街地*中小都市市街地への焼夷弾攻撃


これによると、

・M47A2 100ポンド焼夷弾
・T4E4 500ポンド破砕集束弾
・E46 500ポンド集束焼夷弾

以上の3種類が使用されていた事が分かります。
清太が「250キロの直撃かて大丈夫」と言っていたのは、
M64 500ポンド通常爆弾、通称「250キロ爆弾」の事ですが、
この日の空襲ではどうやら使用されていないようです。
使用された爆弾のうち、神戸市街地に甚大な被害を齎したのは、
M69 6ポンド焼夷弾を38発内臓した、E46集束焼夷弾、
すなわちクラスター爆弾と呼ばれるものです。
清太の家に落ちてきたのも、この弾の中に入っていた1つです。

6ポンド焼夷弾の中身は、ナパーム剤(ホワイトガソリン)です。
付着した箇所の火を消えにくくする為、増粘剤が混ぜてあります。
これが投下後の熱で気化して雨雲になり、広範囲に降り注いだとしても、
要するにガソリンや増粘剤を目の中に入れただけでは、
確かに目には害であれ、体中に異常をきたすまでにはならないでしょう。


では、雨粒に含まれる煤の方はどうか?

ダイオキシンなど有害化学物質を含んだ家屋は、戦前にはありません。
当時の木造建築物は、日本の伝統工法で建てられており、
壁は添加物を用いない土壁で、金具も使わず凹凸だけで組んであります。

これもやはり、燃えかすが雨粒と一緒に目に入ったとしても、
その後の疾患の原因になったとはまず考えられません。


―――


ではいったい、何が目に入ったというのか?

このままでは道場主の妄想で終わってしまいますので、
とある仮説を立ててみましょう。


6月5日空襲の主な攻撃目標は「神戸市街地」でした。
しかし、清太とおばさんの会話からも分かるように、
「動員行っとった神戸製鋼は爆撃でメチャメチャ」になってます。
つまりこの日に爆撃を受けた中には、軍需工場も含まれるのです。

再び米軍資料を元に、場所を確認してみましょう。


被害状況


これは神戸市の損害評定です。少し分かりにくいですが、
青い線が1945年当時の海岸線で、作中に出てくる川は石屋川の事です。
現在では石屋川周辺は埋め立てられて河口位置が変わっているので、
ポートアイランドと六甲アイランドがある推定位置から、
当時の石屋川の河口付近を割り出してマーキングしました。

これを見ると、石屋川近くにある清太の住む御影地区は、
「第二焼夷弾攻撃」の際に、爆撃を受けた事が分かります。


神戸


これが現在の石屋川周辺の地図です。

赤いポイントと色付けされた範囲が清太の家があった地区、
青いのが御影公会堂、オレンジのが御影小学校(御影国民学校)です。


> 中学三年の清太は勤労動員で神戸製鋼所へ通っていたのだが、
 この日は節電日、御影の浜に近い自宅で待機中を警報発令された



原作の記述によると、清太の家は海の近くにあったのでしょう。
アニメでも、いったん海側に出てから川を上ってます。


> 「御影国民学校へ集合してください、上西、上中、一里塚の皆さん。」
 清太の住む町名を呼ばれ、とたんにそや学校に避難しとるかもしれん



ともありますが、この3つの地区は現在の御影本町(赤く色付けした範囲)の、
御影字上西(御影本町6丁目)、上中・一里塚(御影本町8丁目)の事です。
清太の家はこの中にあったと思われます。


石屋川と御影公会堂


これは節子の目に雨粒が入った直後のシーンです。
画面左手の壊れた建物が石屋川駅、右手にある建物が御影公会堂です。


> 時折堤防の松並木越しに見透かす阪神浜側の一帯、
 ただ真っ赤に揺れ動いていて、

 きっと石屋川二本松のねきに来てるわ(中略)

 堤防の上を歩き進むと、右手に三軒の焼け残り、
 阪神石屋川の駅は屋根の骨組みだけ、
 その先のお宮も真っ平らになって御手洗の鉢だけある(中略)

 二本松は国道をさらに山へ向かった右側にあり、
 たどり着いたものの母の姿なく、



こうありますので、石屋川駅のねき(近く)にある二本松の所で、
清太と母は非常時に待ち合わせをする約束を交わしていた事が分かります。

※ (コメント欄より追記。情報有り難うございます。)


アニメの映像と合わせて確認すると、こういう進路が推測されます。


 ・清太と節子、家を出て避難を開始。
 ↓
 ・まず駅のある西の方角に向かう。
 ↓
 ・いったん海に出てから、川床のくぼみに身を隠す。
 ↓
 ・雨が降った後、川縁を登って状況確認。
 ↓
 ・北側に見える御影公会堂には行かず、その焼け跡だけを見る。
 ↓
 ・避難案内に従い、東にある御影国民学校へ。


―――


問題は、風向きです。

節子が財布を取り出し、雨粒が落ちてくるシーンでは、
アニメの映像を確認する限りだと、西から風が吹いています。
それより前の、清太が海へ逃げてきたシーンでも、
対岸から濛々と立ち昇った黒煙が空を覆いつくしてますが、
これもやはり西側から清太達の居る地区に伸びています。


火垂るの墓


西側の対岸、現在のポートアイランド周辺には何があったかと言うと、
当時は軍需製品を製造していた海軍管理工場がずらーっと並んでます。
米軍資料にも、攻撃目標の中には対岸の重化学工業地帯にある、
川崎重工など18の企業の名前がリストに挙がっている事が分かります。

もちろんそこでは、化学製品を扱っています。
これらが燃焼して化合すればダイオキシン類が発生しますし、
当時は鉱毒を含む金属も大量に使用しています。


さらに損害評定で位置関係を見ると、この付近は
「第一焼夷弾攻撃」によって損害を受けた事も確認出来ます。

空襲後の雨は、爆撃から20分~1時間後に降ると言われていますが、
清太が石屋川に辿り着いたのは、自宅が爆撃を受けて10分後です。
御影本町から川までの距離は1kmもなく、走って逃げた事を考慮しても、
川に到達するのに20分以上もかかった事はまず考えられません。

つまり2人が見た雨は、風向きと時間を考慮すると、
「第二焼夷弾攻撃」ではなく、「第一焼夷弾攻撃」で発生した
工場からの黒煙によって降ったものだと仮定されます。

有害物質を含んだ黒煙が雨として降り注げば、
人体に影響が出るのも不思議ではないでしょう。
まして目の中に入れるなどしたら、中毒症状が出ても当然です。


さて、もうお分かりでしょう。

無駄を省く文章スタイルの持ち主であった野坂昭如氏が、
重化学工業地帯の対岸にあった御影地区に、
通り雨が降った事をわざわざ明確に記述する意味が。

節子の死の真因は、軍需工場の出火から生まれた
有害物質を含む黒煙の雨粒を左目に受け、
体内に取り込んだ事によるものだと考えられるのです。


そもそもただの栄養失調であれば、エネルギー消費量から言っても
兄の清太の方が先に症状が出るはずです。
小さな子供はお年寄りと同じで、成長期の中学生よりも
生体を維持するのに大きなカロリーやビタミンを必要としません。

一方で子供は、免疫力が低く、疾病にかかりやすい傾向にありますが、
節子の場合は化学物質によって体内の免疫機能が失われ、
栄養素の欠乏を引き起こしたものと思われます。

死の運命は、清太がどんなに手を尽くしても、
回避する方法が無かったのでしょう。


―――


この映画は、兄妹の閉じられた交流を中心に描かれ、
作品のテーマとなる戦争感は、他のジブリ作品と同様に、
時代の背景としてなるべく奥に隠されています。

しかしどんなに上手く隠していても、それが滲み出ています。
お母さんの悲惨な姿、節子の病気、清太の苦酷と、
死の色合いがあまりに強すぎる為に、誰もが否応なしに
反戦のメッセージを受け取らざるを得ません。

高畑勲監督はこれを反戦映画では無いとしていますが、
戦争によって父母兄妹が全て亡くなっている事を考えれば、
その残酷さが浮き彫りになるのは間違い無いでしょう。


戦後から半世紀以上を経ても、『火垂るの墓』など、
優れた作品によって、当時の状況を鮮明に知る事が出来ます。
最後に、神戸大空襲で失われた多くの命に敬意と哀悼の意を表し、
この記事を終えたいと思います。
 


ご清覧ありがとうございました。

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