金環日食

↑2012年5月21日の日食は、希望の光輪を残していた。


【平成仮面ライダーシリーズの考察記事】
 総論 龍騎 555 フォーゼ



 まるで月と太陽 重なる時の衝撃―

『仮面ライダーウィザード』主題歌、『LIFE is Show Time』の出だしの一節です。

作詞の藤林聖子さんは、平成仮面ライダーシリーズの主題歌を作る際、
作中の謎を解読するヒントとなるフレーズを必ず歌詞に乗せています。


例えば『仮面ライダーアギト』ですね。

 Ready to Go、Count ZERO 仮面ライダーAGITO
 君のままで 変わればいい―


かつての光と闇の戦いの後、光は自分の力を人間に分け与え、
人間を「アギト」の素質を持つ超能力者にしたのですが、
闇の創造者の「ヒトはヒトのままでいればいい…」という啓示に対する返答が、
「君のままで変わればいい」という、アギトの存在を肯定するフレーズです。


『ウィザード』もやはり主題歌の歌詞がヒントになっているようで、冒頭の一節を含め、

 ・ きっと必要不可欠のエナジー 心のため
 ・ 夢と理想 いい意味で裏切ってくれるもの
 ・ 記憶のルーツ潜り込んで 希望救い出せ
 ・ 昨日今日明日未来 全ての涙を 宝石に変えてやるぜ


どうやらこれらの意味が、第5話までの中でほぼ出尽くしたようです。


先日の考察にて、『仮面ライダーウィザード』のストーリーの背景には、
太陽暦と太陰暦など、占星術を基にした暦法が隠されている事を述べましたが、
ここでは結局、月火水木金土日の七曜から「月日」を抜いた陰陽五行の中で、
"金曜"だけが足りない事だけしか指摘出来ませんでした。

今回はこの考察を土台に、「月日」の運行と魔法の力の関係を、
2つの暦法の観点から、より詳しく解説していきます。


―――


ご存知の通り、現在の日本で使用されている暦法は「太陽暦」です。
太陽暦は、太陽が地球を1周する周期である太陽年(365.242)をベースに、
昼夜の周期を1日、365日で1年という区切りを付ける暦法です。

しかし、なぜ「○日」ではなく、「○月○日」という呼び方をするかと言うと、
以前に使用していた暦法である「太陰暦」の名残があるからです。
太陰暦は、月の満ち欠けの周期である平均的な朔望月(29.53)をベースに、
1ヶ月をおよそ30日間で区切った暦法です。

太陽暦では、元旦から何日経過したかで別の年との比較が出来ますし、
太陽の昇降によって1日の時間を知る事が出来ます。
対する太陰暦では、1ヶ月単位で見たその日の月齢が分かりますし、
天体計算や潮見表では、月の位置関係(位相)を見た予測が今も使われています。
ところが、朔望月は12倍しても354日にしかならないという欠点があるので、
現在では元旦から起算してきっちり365日になる太陽暦の方を採用しています。

科学の発達によって照明が発明され、24時間ずっと照らされ続ける事で、
街から夜が無くなり、私達は月相を見る事がなくなりました。
昔は新月の日に討ち入りとか当たり前だったんですけどね…本能寺もそうだし。
本来だと、太陽暦を採用するなら「○月」という呼び方はもう必要ないのですが、
グレゴリオ暦を作ったカトリック教会が復活祭の起算に朔望月を用いている事から、
今でも太陰暦のように「○月○日」と呼び続けているという事だそうです。


また、太陽暦は季節に関わる日数を、太陰暦より正確に教えてくれますが、
太陰暦は人間の内側の時間を正確に教えてくれてもいるんですな。
太陽と月が地球にかかる重力バランスの比率は2:8であり、
月の重力の方が人間の電位的バイオリズムに影響を与えています。
人間の体内成分の70%を占める水分が、月に引っ張られている為だと考えられており、
これを科学の世界では、月の「バイオタイド理論」と言います。
細かい説明は原子と重力の関係を記したフォーゼの総評を参照して頂くとして、
超メジャーな所で月経周期や妊娠周期が朔望月と相関があるなどですね。
満月や新月の日に事件や事故が多発する事は、天下の警察庁も公表してるほど。

人間が持つ時間は、頭上を行き交う太陽という短期的周期と、
体内の電位的バイオリズムという長期的周期の2つによって運行されているのです。
つまり、私達は「月」と「日」の2つの暦を内面に持っているという事です。


―――


「月」と「日」が、作中でどのように活かされているか確認してみましょう。

最も象徴的なのが、金環日食ですね。
日食の予測は、太陽と月の位相から行われています。

『ウィザード』では、太陽="希望"、月="絶望"をモチーフにしているようで、
太陽が月に覆い隠された日に、ワイズマンによって日食の儀式(サバト)が催され、
"希望"の光を閉ざされた人々をファントムに変えてしまったとの事。

ところがこの時の儀式は完璧でなく、月の淵から太陽の光輪が漏れていました。
2012年5月21日の金環日食です。作中に何度もカットが挿入されてます。
「俺が最後の"希望"だ」と、操真晴人が"絶望"した人々に決め台詞を送るのは、
あの日食の日に生まれた光輪を、儀式で生き残った自分と重ねているからでしょう。
「晴人」とはよく言ったもので、まさに太陽のような存在なのです。


それからもう1つが、人間が歩んできた「月日」、思い出です。

月=太陰暦が人間の内面性に影響を与えているというのは、
社会統計学上、そのような傾向が存在するというだけで、
科学的根拠が何ら見つかっていない、疑似科学と呼ばれるオカルトです。
科学の世界では「オッカムの剃刀」という言葉が14世紀には既に存在し、
「同様のデータを説明する仮説が二つある場合、より単純な方の仮説を選択せよ」
という決まり事を作って、余計な思考を剃刀で削ぎ落としてきました。
暦法を生み出した占星術でも、オカルト的な要素は排除され、
天体の運行を正確に計算する技術だけが現代に残されてきました。

科学とは、オッカムの剃刀によって残された太陽暦と同義で、
科学的検証のふるいにかけられる事で、唯一の信用を得てきたのであり、
魔法とは、科学を残す代わりに削ぎ落とされてきた太陰暦と同義で、
信憑性を欠くと判断され、オカルト要素ごと切り捨てられてきたのです。


ところが、人間の心はそう簡単に削ぎ落とせるものではありません。
大門凛子刑事の写真入りネックレスや、魔法使いに憧れる奈良瞬平の絵本など、
刻々と時間が経過していく中で、現世を生きていくのに必要ないと思えるような、
過去の遺物を拠り所とし、ずっと引き摺っている人も居ます。
現世とアンダーワールドの2つの暦が平行している状態ですね。

端的に言うなら、凛子や瞬平は体内の時間が過去で止まってる人です。
作中ではこれを「ゲート」と呼び、ファントムの素養を持つ者として描かれています。


―――


では、なぜ過去にこだわってる人が、ゲートとなりえるのでしょうか。
それはやはり、「月」と「日」に関わりがあると思われます。

いくら心が過去に向いていても、時間は容赦なく未来に向かって進んでいる訳です。
つまり人間が持つ2つの平行する暦のうち、メンタルを司る太陰暦の方が停止し、
肉体を老化に導く太陽暦の方だけが経過している事になります。
心をアンダーワールドの中に閉じ込めて、現世とのギャップを感じてる。
瞬平なんてまさに、子供がそのまま大人に成長したかのようなキャラですよね。

ファントムの狙いは、科学の否定、そして魔法の復活にあると思われます。
魔法が表す意味は、科学によって否定されたメンタルパワーを指しているのでしょう。
ワイズマンが儀式を催す期日として日食の日を選んだのは、
科学の象徴である太陽が、オカルトの象徴である月に覆い隠され、
人々の心の間隙を突くチャンスが生まれる為であろうと推測が出来ますね。

ファントムは、2つの暦が両方とも止まり完全な死を迎えた「亡霊」の事で、
ゲートは、メンタルが不安定な、心の中の太陽に支えられて生きている人です。
ファントムはゲートが持つ残された太陽を月で覆い隠し、
"希望"の光を摘み取って、現世を生きる亡霊と変えてしまいます。

『ウィザード』のテーマは、日食の儀式によって心を打ち砕かれながら、
わずかに漏れでた"希望"の光輪を信じて立ち上がった晴人が、
"絶望"に追いやられ、前に進まなくなってしまった人々の太陽となり、
心の中の月を照らして、止まってしまった「月日」を動かすという事なのでしょう。


ゲートとは反対に、肉体の時間が止まったのが、コヨミちゃんです。
コヨミちゃんは晴人と同じように日食の儀式に巻き込まれ、
記憶を失くしてしまった少女、という設定のようです。
コヨミちゃんの中の時間は、太陰暦=魔法の力で動いてます。
ただし、魔法の力は科学万能の時代において既に削ぎ落とされたもの。
なので魔法が使える晴人が、コヨミちゃんの魔力を補充してやる必要があります。

…でもさ。

乙女の手をいきなり取って下腹部をシャバドゥビタッチさせるのは、
日曜の朝の絵面的にどうかと思うんだ…。


シャバドゥビタッチ

シャバドゥビタッチ

↑「俺も股間にファントムを1匹飼ってんだ」の図。
 おまわりさん、こいつです。



全ては晴人が股の浅いズボンを履いてるせいなんですが、
この光景を初めて見た凛子や瞬平が「エッ!」ってなるのも、そりゃ分かるよね…。
しかも現職警官の目前での犯行。2度目の現行犯逮捕となる所でした。


―――


さて、戯言はこのぐらいにして、主題歌の歌詞の意味をおさらいしてみましょう。


 ・ まるで月と太陽 重なる時の衝撃
 →これはもちろん、晴人が"希望"を失った人を照らし出す事です。

 ・ きっと必要不可欠のエナジー 心のため
 →科学によって否定されたメンタルのエネルギー、つまり魔法ですね。

 ・ 夢と理想 いい意味で裏切ってくれるもの
 →時間を前に進めるのは、過去に抱いた夢や理想じゃないって言ってるんでしょう。

 ・ 記憶のルーツ潜り込んで 希望救い出せ
 →止まってしまった「月日」の原因を探るべく、過去にダイブする事です。

 ・ 昨日今日明日未来 全ての涙を 宝石に変えてやるぜ
 →過去から未来へと絶え間なく流れる「月日」を、輝くものにしようって意味。


今回のまとめです。


・ 『ウィザード』は月のバイオタイド理論を基にしている。
・ 月と太陽は、人生で歩んできた「月日」を意味している。
・ 魔法とは、科学によって否定され削ぎ落とされたメンタルパワーの事。
・ 人間は現世(太陽暦)とアンダーワールド(太陰暦)の2つの暦を持っている。
・ ゲートは過去に引っ張られて心の時間が停止した人。
・ コヨミちゃんはゲートとは反対に、現世の時間が止まっている。
・ ファントムは両方の時間が止まり、完全な死を迎えた亡霊。
・ 晴人は現世の時間を生きる"希望"となってくれる太陽の存在。



こんな所です。いかがでしたか?


『ウィザード』で1つだけ残念なのは、凜子と瞬平ら脇を固める2人が、
前作と比較していまいちキャラを活かせてない所でしょうか。
『オーズ』の怪力っ子と同様に、役割がよく分かりません。
テーマはとてもユニークで、ストーリーにも上手く落とし込めていると思いますね。
人物描写が乗り切れていない点を除けば、ハマるお話だと思います。

道場主は『ウィザード』の放送が楽しみすぎて、現世の時間が早まってます。
もしゴルフ中継で放送が潰れたりしたら、絶望してファントムになりそうな勢いです。

とりあえずテレビ朝日さん、ゴルフも駅伝もアンダーワールドの方で放送して下さい。
現世人代表として、お願いします。\プリーズ/
 


ご清覧ありがとうございました。