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漫画道場 漫画やアニメを学術的観点から考察・レビューします。



【短評】『ハウルの動く城』~ソフィーにかけられた2つの魔法


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↑飾らない美しさが、心にはある。


ジブリ映画考察の第4回は、2004年公開の『ハウルの動く城』です。

【ジブリ考察シリーズ】
 第1回 『千と千尋の神隠し』
 第2回 『火垂るの墓』
 第3回 『崖の上のポニョ』


宮崎駿作品は、『もののけ姫』以降で変革が起きました。
どこらへんが変わったのかを読み解くには、これより以前の作品、
つまり『紅の豚』を掘り下げて考える必要があります。
監督はこの作品を「作るべきではなかった」と反省の弁を述べられ、
「次作で決着を付ける」と決意を新たにされています。

宮崎作品は豚を醜く汚いものの象徴にしてますが、
『紅の豚』では、豚になる魔法を自身にかけた飛行機乗り・ポルコを、
ニヒルな賞金稼ぎとしてかっこよく描いてます。
ポルコが豚になったのは、人間としての暮らしが嫌になった為で、
豚になった苦悩も無ければ、周囲への偏執も無く、
最後にはフィオのキスで元の人間の姿に戻っています。

『もののけ姫』や『千と千尋』は、『紅の豚』では触れなかった
生きる苦悩や偏執を描こうとしたに違いありません。
ゆえに、アシタカや千尋にかけられた呪術に"意味"を持たせています。
タタリガミの呪いは、死の運命に向き合いながら
生きる道を選んでいくアシタカの生と死の二面性を描き出しており、
そして湯婆婆の呪いは、生きる事に背を向けた千尋の心に、
もう1度前を向いて歩みを進める機会を与えています。


『ハウル』も、変革のあった後期作品に位置します。

 '84 風の谷のナウシカ
 '86 天空の城ラピュタ
 '88 となりのトトロ
 '89 魔女の宅急便
 '92 紅の豚

 '97 もののけ姫
 '01 千と千尋の神隠し
 '04 ハウルの動く城  ← ココ
 '08 崖の上のポニョ

この作品にもやはり、魔法をかけられ姿を変えた主人公として、
90歳のおばあちゃんになったソフィーが登場しますが、
豚になったポルコとは、その経緯も、その意味も、明らかに異なりますよね。

では、ソフィーにかけられた魔法の意味とはいったい何なのか。
今回はこれを詳細に追ってみたいと思います。


―――


まず、ストーリーを整理してみましょう。『ハウル』には、
ソフィー以外にも姿を変えている人や物がたくさん出てきます。

ハウルの動く城


空を飛んだり透明になったりする魔法もいくつか見られはするんですが、
作中で描かれている魔法は、基本的に姿を変えるものが多く、
ハウルも敵を倒すのに、妖力を使ったり、光線を出したりしません。
黒い鳥に化けて、肉弾戦のみで戦ってます。

ここから魔法の定義を考察すると、ポルコが豚の姿になったように、
自分の心の姿を写し取る為に用いられると考えられます。
ハウルの金髪姿や、マルクルの大人ぶった姿、荒野の魔女のマダム然とした姿も、
元来の姿を否定し、心の中の願望の姿を肯定した結果であると言えます。


さてこの姿を変える魔法、使っているのは主にハウルと荒野の魔女です。 
ハウルは悪魔・カルシファーと契約によって力を得ています。
カルシファーが「ソフィーの目をくれるかい?」と何気に怖い台詞を言ってる事から、
どうやらハウルの魔法は等価交換が求められる西洋黒魔術のようです。
より強大な力を求めてハウルの心臓を狙う荒野の魔女も、
サリマン先生によると「悪魔と取引をして身も心も食い尽くされた」との事。
そう言えば魔女って悪魔と姦通するんですっけ…((((;゚Д゚))))ブルブル

となると、この2人が変身魔法を使うには何かしらの代償が必要になりますよね。
ハウルの場合はズバリ、若い女性の心臓が。
町の噂によれば「南町のマーサって子」が犠牲者らしいのですが、
これ、カルシファーが具体的な供物を要求してるとなると、
物の例えでなく本当に心臓を食べられてるという可能性もありますけど、
おそらく心臓=心を意味していると考えるのが妥当であると思います。

では、荒野の魔女はいったい何を代償にしたのでしょうか。
これは仮定に過ぎませんが、元々の姿がよぼよぼのお婆ちゃんであった事や、
若くて良い男に執着を見せている事から察すれば、男にモテる為に、
ソフィーの「若さ」を吸い取って、自分のものにしているのだと思われます。


ではでは、なぜ荒野の魔女の呪いの魔法を受けたはずのソフィーが、
自意識に応じて若返ったり老いたりを繰り返しているのか。
ポルコやアシタカや千尋にかけられた呪いは、勝手に解けたりはしませんし、
自力で何とか出来るような容易なものでもありません。

ここから得られる答えは、ただ1つ―

ソフィーは荒野の魔女からお婆ちゃんの姿に変えられるより前に、
ハウルによって強大な魔法をかけられてしまっているからです。
ハートズッキュン、心を奪う、恋の魔法を。


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↑奴はとんでもないものを盗んでいきました。あなたの心です(キリッ


ソフィーはハウルと空中遊泳をした時に、魔法にかけられたと思われます。
「どうせ私なんて」と自分を否定する暗示の鍵が外れ、
心だけが恋しちゃってもいいじゃないモードに変身しているのです。

荒地の魔女がかけた呪いの力で肉体が老いても、心は18歳のままである為、
ソフィーが心のままを表した時はハウルの力に天秤が傾いて若返り、
逆にソフィーが心を否定した時は、荒地の魔女の力に傾き、
心身ともに老人の姿に近付くという、実にややこしい事になっています。

この複雑に揺れ動く天秤模様は、ソフィーの心理状態をよく描き出しており、
外見にとらわれない心の美しさを90歳のお婆ちゃんに投影し、
死の呪いをかけられたアシタカや、 名前を奪われた千尋と同じように、
今作のテーマに直結する"意味"を持たせています。


―――


ここからはストーリー考察です。

物語が佳境に入ると、ハウルは「守らなければならないものが出来た」と告げ、
悪魔の力とさらに同化し、国王軍との戦争に加担します。

ハウルは金髪から黒髪に戻ってしまった自分の姿に、
「美しくなかったら生きていたって仕方がない」と絶望してますが、
ソフィーに励まされてからは、黒髪の自分を肯定しています。
心の向くままに生きるのに、もう変身なんてしなくてよかったはずなんです。

ですがハウルは再び変身しちゃいました。ハウルが花畑の中で誓った、
「ソフィー達が安心して暮らせる」夢のような生活を続けるには、
本物の悪魔へと身をやつし、外敵を排除しなければならなかったからですね。
前述の通り、変身魔法は心の願望を肯定した姿です。
ハウルはソフィーを守る為に、デビルマンに変身したのです!


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↑悪魔になります。


ソフィーはハウルの身を案じ、「あの人は弱虫が良いの」と言って、
カルシファーとの契約の秘密を突きとめ、ハウルの心臓を元に戻します。
悪魔となってしまったハウルに、人間の心を戻したという意味でしょう。


で、これと同時にもう1人、変身魔法が解けた人が居ますよね。
かかしのカブ頭にされていた、隣国の王子です。
いったい誰がこの王子をカブ頭にしてたのか、疑問が残りますが、
おそらく王国側の都合で隣国との戦争を誘発する為、
サリマン先生が王子をかかしに変えていたと思われます。

宮崎監督は、『ナウシカ』の頃から"非戦"を訴え続けています。
監督のメッセージは、2人の変身が解けた事で成就されているのです。
これで話はめでたしめでたし…


と思いきや、最後の疑問がまだ解消されていません。
ソフィーの魔法ってどうなったの?

ソフィーの姿は、ハウルが悪魔と同化し戦地に飛び立って以降、
髪は銀髪のままですが、1度も老化していません。
要するに心の天秤がハウルの方に傾きっぱなしになっているという事ですが、
ソフィーにかかっていた2つの魔法は、解けていないんです。

これは、ハウルがソフィーの銀髪を肯定してくれたからに他なりません。
ハウルの黒髪をソフィーが肯定してくれた時のように、
お互いがお互いの本当の姿を、心から認め合っている。
まさに、サリマン先生の言った「ハッピーエンド」という訳ですね。


―――


原作には、ソフィーも命を吹き込む魔法を使える、という設定があるようです。
どうかカルシファーが千年も生き、ハウルが心を取り戻しますように
というソフィーの台詞が、実は魔法の呪文だったというのです。

宮崎監督が原作の設定に必ずしも忠実では無いので、
道場主としてはこういった考えを否定していますが、
心臓=心を失ったハウルに、ソフィーが新しい命を与えるという、
また違った解釈の仕方も出来るので、面白いですね。

引用:ハウルの動く城の謎の分析と解釈


そして、原作の設定に準拠していると仮定した場合、
ハウルがソフィーに惹かれた本当の理由も明らかになります。

ソフィーがカルシファーとの契約内容を知るべく、ハウルの過去を覗いた時、
私はソフィー、待ってて、私、きっと行くから、未来で待ってて!
と、子供の頃のハウルに必死で叫んでいますよね。

もしもこれが魔法の呪文であったとしたら?
そう、幼いハウルも、ソフィーに魔法をかけられているんです。
心を奪う、恋の魔法。ハウルとソフィーは最初から相思相愛だったんです。
だからこそ、何も無かった草原を花畑でいっぱいにして、
何年もずっとソフィーを待っていた、という事になるんでしょうね。

ハウルの心情は1番最初の台詞に現れてます。
「やぁごめんごめん、探したよ」、とっても深い意味になります。


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↑ハウルはずっと待っていた。


今年2013年は、宮崎監督の待望の新作、『風立ちぬ』が公開されます。
堀辰雄の同名の作品のプロットを下地にした、
ゼロ戦の設計者である実在の航空技師・堀越二郎のお話だそうで、
つまりこれもまた戦火の愛を描いた作品になるっぽいです。

『ハウル』では暈されてきた戦争描写が克明になるはずで、
ファンタジーを主体とした作品を残されてきた監督が、
実際に起きた太平洋戦争という題材を、どのように変身させるのか。
『ハウル』が大好きな道場主は、とっても期待しています。

未来で待ってます。
 


ご清覧ありがとうございました。

【雑記】2012年人気記事ランキング ベスト10

こんにちは、道場主です。

2012年4月6日に開設したひよっこの当道場ですが、
幸運にも多くのアクセスを頂き、皆様には感謝の念に堪えません。
今年も残りわずか、1年の最後を締めくくる記事は、
これまで公開した71記事の中からトップ10を振り返ってみたいと思います。


―――


【2012年人気記事ランキング】

1位 『火垂るの墓』~節子の死の真因を探る

火垂るの墓 訪問者数 : 14128pv / 12971uu
   共有数 : 29ツイート / 5ブックマーク

  Google検索でWikipediaに次ぐ2位となり、
  コンスタントにアクセスを頂きました。 
  節子の死は単なる餓死ではないという分析から、
  その真因を導き出した考察記事です。



2位 ドラゴンズドグマ考察~ドラゴンと覚者とポーンに隠された意味

ドラゴンズドグマ 訪問者数 : 9813pv / 8252uu
   共有数 : 101ツイート / 2ブックマーク

  バックリンク数トップで、多くの反響を頂きました。
  発売前に得た情報から1ヶ月かけて考察し、 
  実際にプレイして分かった事を加えて、
  キリスト教義との共通点を解説しています。



3位 漫画・アニメファンの知られざる表現規制

女戦士 訪問者数 : 7807pv / 7198uu
   共有数 : 237ツイート / 38ブックマーク

  12月に書いた記事ながら、今年最大の反響を頂き、
  選挙期間中の集中アクセスで堂々の3位です。
  表現規制に関する是非を一覧に纏め、
  その背景について詳細を述べています。



4位 漫画・アニメファンの為の分かりやすい衆院選2012 公約要旨

衆議院

 訪問者数 : 5326pv / 4848uu
   共有数 : 29ツイート / 8ブックマーク

  漫画・アニメに関する各党の公約集です。
  経済対策と社会保障の両立を中心に見ています。
  政権与党が詐欺フェストを働いていないか、
  こちらでチェックしていきましょう。



5位 もしもIQ80の引きこもりが夜神月の『DEATH NOTE』を拾ったら

夜神月

 訪問者数 : 4676pv / 4424uu
   共有数 : 4ツイート / 3ブックマーク

  好評のネタ考察シリーズ第1弾です。
  夜神月が敗北に至った理由を明らかにし、
  その対処策をIQ80の凡人に実践してもらいました。
  なお、道場主は大場つぐみ先生のファンです。



6位 もしも乙女漫画の男子と萌え漫画の女子が付き合ったら

高梨奈緒

 訪問者数 : 3756pv / 3488uu
   共有数 : 15ツイート / 3ブックマーク

  ネタ考察シリーズの第2弾がこちら。
  社会問題化する男女の主客認識の溝を埋めるべく、
  完璧男子と萌え女子に付き合ってもらいました。
  オチを書きたかっただけです、はい。



7位 『ガンバ!Fly high』~内村航平が愛読した「楽しい体操」

藤巻駿

 訪問者数 : 3255pv / 2999uu
   共有数 : 14ツイート / 6ブックマーク

  ロンドンオリンピック特集の2回目です。
  森末慎二さん原作の体操漫画に描かれた、
  体操男子金メダリスト・内村選手の原点である、
  「楽しい体操」について振り返りました。



8位 『20世紀少年』 ~オトナ帝国の逆襲との共通点と「ともだち」の真の目的

20世紀少年 訪問者数 : 3100pv / 2903uu
   共有数 : 6ツイート / 4ブックマーク

  太陽の塔が残した昭和モラトリアムの中で生きる
  しらけ世代の新しい自己表現の方法を、
  1960年代と70年代の文化の違いから見た上で、
  『劇場版クレヨンしんちゃん』と比較しています。



9位 『仮面ライダーウィザード』~太陽暦と太陰暦が重なる意味

金環日食 訪問者数 : 2846pv / 2546uu
   共有数 : 9ツイート / 1ブックマーク

  月の重力が人体に及ぼす影響を「魔力」に、
  月と太陽の動きを「月日」に当てはめ、
  時間が前に進まなくなった人達に希望を与える
  今作のテーマについて考察しています。




10位 『YAWARA!』~今だから学びたい嘉納治五郎の「一本」の精神

猪熊柔

 訪問者数 : 2654pv / 2484uu
   共有数 : 8ツイート / 1ブックマーク

  ロンドンオリンピック特集の初回です。
  誤審問題が取り沙汰された柔道競技において、
  なぜ漫画の中では誤審が起きないのかを、
  ヤワラちゃんのおじいちゃんに学んでみました。



―――


改めて、当道場に訪問して下さった皆様、有り難うございました。

また、いつもニュースに取り上げて下さった痕跡症候群様、朝目新聞様、
見ず知らずの道場主を暖かく迎えて下さったアニプレッション様、
そして相互リンクサイトの皆様にも、全方位土下座で感謝です。


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この1年、本当にお世話になりました。
来年もまた、誰得記事製造マシーンの道場主を宜しくお願い致します。
  



ご清覧ありがとうございました。

【ネタ考察】もしも『バクマン。』の七峰透がデミングサイクルを導入したら



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↑悪の栄えた試しなし…なんてはずはない!


アニメ『バクマン。』も、ついに七峰くんが登場しましたね。

さて道場主は、原作で七峰くんが例の50人合議制を初披露した時、
亜城木夢叶は七峰くんに必ず敗北すると思っていました。
このやり方が漫画業界に一石を投じる提案であったのに対し、
サイコー達2人が七峰くんに宣言した「PCPで叩き潰す」の根拠が、
「そんなやり方はプロとして許せない」からという、
極めて曖昧な個人的主観に基づくものであったからです。
キミタチ、面白さ至上主義じゃなかったんかい。

ところが結果は、七峰くんの自滅という形で作品打ち切りとなり、
投じられた石が何の波紋も起こさぬまま、このエピソードは終わりました。
すっごく煮え切らない思いをしましたよ私は、ええ。

確かに七峰くんの方にも明らかな失点があり、
50人の意見を纏めるほどの力が無かった事実は存在します。
ですが、それは七峰くんのプロデュース力が否定されただけで、
合議制そのものが否定された訳ではありません。
それどころか、作品の面白ささえ継続できていれば、
漫画家先生の苦労を低減する、実に理想的な手法である事を、
後にシュージンも認めちゃっているのです。


では、七峰メソッドが完璧な管理の下で行われていたら、勝負はどうなったか?
編集との二人三脚で良質な作品を生む手法に勝てるのか?

邪道バトルの申し子・道場主が、これを考察してみたいと思います。


【その他のネタ考察】
 もしもIQ80の引きこもりが夜神月の『DEATH NOTE』を拾ったら
 もしも乙女漫画の男子と萌え漫画の女子が付き合ったら


―――


まず、勝敗の基準となる「面白さ」とは何ぞやという所から決めましょう。
漫画をテレビや自動車のように、1つの商品として見た場合、
漫画作品の面白さは「品質」の事であると定義出来ます。
モノ作りにおける製品、芸術活動における作品という違いがあるだけで、
顧客満足に応えるものであるか否かが、商品優劣を決定すると言えるでしょう。

品質は、時間をかければその分だけ良くなります。
しかし週刊連載を続けていく上では、時間をかける事は許されません。
従来の漫画作品は、時間と品質との兼ね合いによって生まれてきましたが、
品質に拘りすぎると、連載が継続できないケースも出てきます…。
時間と品質は、トレードオフの関係なのです。

で、もしこの品質を複数人でマネジメントしていくとしたら、
先生方を苦しめる時間的制約が一気に解消出来る可能性がありますし、
先週までは神展開だったのに今週の展開はいまいちといった、
品質のバラツキも未然に防ぎ、一定の面白さを保つ事だって容易になるでしょう。
時間短縮と品質向上が両立できちゃう、夢のようなお話です。


しかし、50人で面白いネタを考え、七峰くん1人が意志決定をするやり方では、
出来うる品質にも限界が生じ、必ず破綻を起こします。
面白さを判断するのは顧客であって、七峰くんではないからです。


七峰メソッドを管理図で表すと、こうなります。

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七峰くんは読者アンケートの結果が亜城木作品を越えられなかった理由を、
「レベルが高すぎて読者が理解できなかったから」と断じ、
読者より50人の力を信頼していたがゆえに、まともに分析してません。
しかもこの50人の中にも、顧客ニーズを作品に取り入れようとした人が居ません。
仮にも編集経験者とか居るんだろ? 勝負の2話目()とかいう眉唾より、
少しでも読者に満足してもらえるアイデアを出せよマジで。

作品の品質を上げる為には、読者が何を望んでいるかを正確に把握し、
計画方針の段階からそれを落とし込まなくてはなりません。
品質学の観点から見た場合、七峰メソッドは工程管理(SPC)に優れていて、
漫画家1人でやるより効率的に作品を作る事に成功はしていましたが、
読者の声を拾い上げるシステムがこの時はまだ構築されておらず、
珠玉のアイデアが誰得状態になっていたと考えられます。

これを改善するには、品質管理(TQC)という別の手法によって、
顧客ニーズを専門的に分析する人達を50人の中に加え、
それぞれの能力に応じて人員を適切に配置する必要がありました。


引用:環境と品質のためのデータサイエンス

 SPC: Statistical Process Control
   → 品質のバラツキを管理し、品質向上に繋げる手法。
 TQC: Total Quality Control
   → 品質目標を決め、50人の総力を結集して管理する手法。


世界で最も有名なTQCは、トヨタ自動車の「カイゼン」です。
効率化の理念を、期間工や掃除のおばちゃんまで社内の隅々に浸透させ、
全ての社員が同じ目標に向かって継続的な改善を行っています。

七峰メソッドの問題点は、盛り込んだアイデアが顧客満足に繋がっていない事と、
アイデアの選定を七峰くん1人で行っていた事です。
これらをTQCの適用によって、具体的に「カイゼン」してみましょう。


―――


七峰メソッドに顧客の声を反映した管理図がこちらです。


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従来のシステムでは、七峰くんのお眼鏡に適う面白いアイデアであれば、
読者アンケートの結果に関係なく作品に取り入れられてきました。
これが原因で、需要と供給の不一致を起こしていたと考えられます。

新システムでは、読者アンケートの結果を分析し、
抽出された要因から導かれる改善案を基にアイデアの選定を行う事で、
生産リソースを無駄なく作品に伝えられるようにしています。
このように、PLAN→DO→CHECK→ACTIONの4段階のサイクルを
ぐるぐる回して継続的な改善を行い、品質向上に繋げる手法を、
それぞれの頭文字を取って、PDCAサイクルと呼びます。
アメリカの統計学者、エドワーズ・デミング博士が完成させて、
戦後の日本企業に持ち込んだ考え方です。

PDCAサイクルの中で最も重要なのは、CHECK=評価です。
成功要因(Signal)と失敗要因(Noise)をどれだけ正確に抽出できるかが、
このサイクルを円滑に回す為の分かれ道になります。
ですが安心、品質学には2つの要因(SN比)をパラメータ化して評価する、
タグチメソッドという魔法のような手法があります。
田口玄一さんという日本人工学者の方が編み出した秘奥義で、
これを使いこなせば、改善もスムーズに進みます。
どうせだからこれもPDCAサイクルに組み込んじゃいましょう。


七峰くんもいくら頭が良いと言っても、ただの高校生です。
彼にはブレーンが必要であり、それは漫画に詳しい50人()とかでなく、
いかにして品質=面白さを継続させるシステムを考え、
頭の良い七峰くんを納得させうる人材こそが望まれました。
なので、新人編集の小杉くんも、アプローチの仕方を間違えてるんです。
やり方が正しいとか間違ってるとか、主観的な話はどうでもいい。
七峰メソッドでは面白い作品が継続できない事を論理的に説明すべきでした。

もしも七峰くんがデミング博士のマネジメントシステムを導入していたら、
旧態じみた亜城木ごときの根性論には敗れたりはしていません。
ここからは道場主が七峰くんのアドバイザーとして50人の中に加わり、
勝利へのプロセスをシミュレートしていきましょう。


―――


サイコー 「ネットで意見してもらって作品を作るなんて…!」

シュージン 「作品は邪道でもいいけど、作り方が邪道じゃ駄目だ!」


七峰 「編集に頼ってるうちは、自信の無いアマチュアですよ…」


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サイコー「プロを舐めない方がいい、そんなやり方、いつか必ずボロが出る!」

シュージン 「お前を10週で打ち切りにしてやる!」


…(゚Д゚)ハァ?


七峰 「勝ち負けは結果です…新しい友情・努力・勝利を見せてあげますよ」


亜城木なんとかの前で啖呵を切った、我らが七峰せんせい。
さっそく仕事場でネットミーティングを行います。


nanamine >
 1話目、速報で2位でした


ta1 >
 1話目はあれでいい、勝負は2話目!

SUGI >
 おっ!編集経験者 ta1さん! どういうこと?

ta1 >
 大事なのは2話目で負けないこと
 亜城木が何か仕掛けてくるなら2話目と予想する



駄目だこいつら…早くなんとかしないと…


dojyo >
 2位じゃ駄目なんでしょうか(キリッ


SUGI >
 おっ!元新聞記者 dojyoさん!どういうこと?


dojyo >
 大事なのは現状を分析すること
 SN比の最適条件を尺度にロバスト設計しましょう

SUGI >
 お、おぅ


dojyo >
 アイデアは詰め込みすぎるものでなく…


こうして50人に品質学をレクチャーし、七峰せんせいの了解を得て、
話作りの上手い人は物語のアイデアを、編集経験者や私は情報分析をと、
人員をそれぞれの担当ごとに振り分けていきます。


dojyo >
 …という風に、SN分析によってアイデアの取捨選択をしていくんです

nanamine >
 なるほど、それなら客観的に判断できますね


SUGI >
 でも面白いアイデアなら積極的に取り入れた方が、
 順位は上がるんじゃないの?

ta1 >
 『H×H』の冨樫も言ってたな、アイデアは暖めておくって
 使えるネタをここぞって時に出す方がより面白いって事だろ


流石にみんな理解が早い…必要なアイデアを必要な時に必要な分だけ使う、
これぞトヨタ自動車に伝わる必殺技・ジャストインタイム!


dojyo >
 アシスタント14人に、アイデアマンとデータアナリストが50人、
 全員の総力を結集させれば、作品の質を継続できますよ

nanamine >
 よし、この方法で行きましょう!


くっくっく…亜城木め、ネットの力を舐めるなよ。


―――


亜城木夢叶


サイコー 「ええーーーーーっ!?」

シュージン 「本ちゃん4位!?」



服部 「2位の『有意義な学園生活に必要なソレ』に票を奪われている」


サイコー 「七峰くん、2話目で急に絵のクオリティが上がったんだよな…」

シュージン 「
それだけじゃない、3話目以降は詰め込みすぎの読み難さが無くなってる


それがTQCによる「カイゼン」の結果ですぜ。


七峰 「ご無沙汰してます、亜城木先生…フフフ」

シュージン 「…七峰くんっ?」

七峰 「ほぉら、僕が正しかった…こんな新人、過去に居ます?」

シュージン 「俺たちは、俺たちの『PCP』をしっかりとやっていくだけだ」


七峰 「フフ…亜城木先生は勘違いをされてるようですね」

サイコー 「何っ!」

七峰 「ネットの力を、50人の横の繋がりをね」


そう、亜城木コンビは最初から勘違いをしているんです。
ネットで見つけた50人を、統率の取れないバラバラの集団だと決め付けている。

なぜ七峰くんがネット上で漫画に精通した50人を見付ける事が出来たのか?
それは、この50人が何らかの情報を発信していたからに違いありません。
そしてそれらの情報は、同じコンテクストを持つ人達に共有され、
ソーシャルメディアを経由して横の繋がりを生むのです。
2chで面白発言してる人をテキトーに選んでるとか、そんな訳がない。

でもって彼らが発信する情報は、Noise要因が予め取り除かれています。
Signal要因だけを共有するリテラシーが、50人にはあるんです。
それぞれの価値観が違ったとしても、それぞれを理解し合う人達を、
統一された目標の下で適切にマネジメントしていけば、
大きな成功を得るのは、決して難しい事ではありません。
オウンメディアを活用する実際の企業運営と考え方は全く同じです。

真城くんはともかく、高木くんまでネット=2ch的なものだと思ってるのが、
道場主としては全くもって得心がいかないですね。 
玉石混交の「石」の部分しか見てないとしか思えません。 



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七峰 「どうせなら同じ話で勝負しませんか?簡単に白黒つくじゃないですか」

シュージン 「そんなの大問題になる、その挑発には乗れない」


サイコー 「…やろう、シュージン」

シュージン 「サイコー!? …まぁ編集長がOKすればいいけど…」

サイコー 「俺たちがこんなやり方に負けるはずない」


七峰 「僕には50人ものアドバイザーが居るんですよ?」

シュージン 「君にはそれを纏める力は無い、つーか誰だろうとそんなの無理」


誰かが纏めるんじゃねぇ、全員で纏まるんだ!
七峰せんせい、この青二才どもに正義の裁きを下してやりましょう。



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再びネットミーティングにて。


> しかし、ありがちな設定だけに難しいぞ

> 正攻法もいいけど大どんでん返し

> いかに華麗にカッコよく勝たすか

> 感動の演説とバックボーンになる出来事なんてどう



七峰 (みんな真剣に意見を出してる、これならいける…!)


いやいや、いけないから。


dojyo >
 それぞれの意見ももちろん大事ですけど、
 読者の声を分析した結果を基にアイデアを練りましょう

NARUTO >
 つまり…どういう事だってばよ?


dojyo >
 y=βMから得られるのは漫画の基本的性質である面白さですから、
 制御因子の水準値を変えて、読者との需要の誤差をマッチさせましょう
 
NARUTO >
 お、おぅ


take20 >
 俺が考えた先週のオチは上手くマッチしなかったもんな

nobuo >
 下ネタだったけどな


…こいつらはクビでいいんじゃないのかな


boss >
 なら、暖めておいたアイデアを使うのはどうだ?

SUGI >
 おっ!ジャストインタイム発動きたーー!

take20 >
 生徒会長に圧倒的不利な状況で立候補した生徒を勝たす話にするんだろ
 今の展開で使えそうなのがあったはず

nobuo >
 それならこれは…



七峰 (みんな真剣に意見を出してる、これならいける…!)


ついにTQCがここに成った…!
七峰せんせいの勝利も秒読み開始だ。

見ていろ少年ジャンプ…待っていろ亜城木夢叶!


―――


真城最高


服部 「…3位だ」

シュージン 「3位!?」 

サイコー 「『有意義』は!何位だったんですか!?」

服部 「…1位だ…見事だよ」


シュージン 「1位…そんな…」

サイコー 「敗北…破滅…挫折…、負けたっ…」

服部 「『PCP』に票を入れた人は、『有意義』の方も上位にして入れている」


本当にこの世は金と知恵ですね、亜城木先生。


実際のストーリーでは、七峰くんは亜城木コンビに惨敗します。
それは、七峰くん個人に原因があったのではなく、
やはり生産システム上に欠陥があったからだと思います。
逆に、システムに問題が無ければ、充分に勝つチャンスがあったと言えます。
道場主としては、やり方が間違ってるという結論で締めくくられたのは、
アンフェアであったのではないかと思っています。


このお話、後日談があります。原作では七峰くんが
「シンジツコーポレーション」という名前の漫画制作会社を設立して、
再び亜城木コンビの前に立ち塞がるのですが、
この会社ではモニターを雇い、読者の声を拾い上げるシステムにしてます。


で、シュージンの感想が前述のこれ↓

高木秋人


そう、今度のシステムは良く出来てるんです。TQC的に。
でも結果的に駄目だったのは、目標がはっきりしていなかったから。
 
「新世界の神になる」のが目的だったはずの夜神月が、
いつの間にか「Lに勝つ」のが目的となり、迷走していったのと同じ。
七峰くんは「亜城木に勝つ」事を目標にした時点で間違ってました。
「読者アンケート1位」を目指すべきだったんです。

PDCAサイクルも、導入すれば必ず成功する訳ではありません。
明確な目標、的確な分析は絶対条件となります。
単に計画を立てて実行するだけなら2ステップで済みますが、
形だけを真似るんだったら、余計な工数が増える諸刃の剣なんです。


しかし、おかしな点がありますよね…。

七峰くんが作ったのは紛れもなく「会社」なんですよ。
会社の経営目標がはっきりしないって、駄目でしょ、それ。

素人50人がやってる時はまだいいですよ。
でも、会社は事業内容を公表しなくちゃいけないんですよ。
実家がお金持ちだから銀行から融資を受けなくていいっつっても、
こんな所と一緒に仕事してくれるパートナー企業なんか見つかりっこねー。


シンジツコーポレーション

           諸悪の根源らしき、ひげのおっさん↑


名前が分からんけど、経営コンサルタントらしき人物も居ますよね…。
この人はいったい何をやってたんでしょうか。
私の目にはとても優秀な人物には見えませんが…。

つまり悪いのはこのおっさんだ。七峰せんせいは己が正義を貫いている。
このおっさんがプロの仕事をしなかったから、あんな目に…。

うんきっとそうだ、そういう事にしよう。


 結論: おっさんは死刑


七峰せんせいは正しいんだー。
それさえ伝われば、私は他に言う事はありません。
  


ご清覧ありがとうございました。

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